artscapeレビュー
高橋恭司『WOrld’s End』
2019年10月01日号
発行所:Blue Sheep
発行日:2019年8月19日
高橋恭司は1992年に映画監督・アーティストのデレク・ジャーマンのポートレート撮影を依頼され、イギリス南部のダンジェネスを訪れた。ジャーマンは、HIV感染宣告後に移り住んだこの街の近郊にプロスペクト・コテージと称する家を建て、奇妙なオブジェが点在する庭を作り続けていた。この「世界の果て(エッジ)が目の前にある」ように感じられる場所を撮影した写真は、高橋の最初の写真集『The Mad Bloom of Life』(用美社、1994)にもおさめられている。それから27年余りを経て、もう一度それらの写真と「2010年代後半のベルリン、ロンドン、東京郊外」で撮影した写真とあわせて刊行したのが、本作『WOrld’s End』である。写真集刊行にあわせて、東京・赤坂のBooks and Modernと千代田区のnap gallery でも同名の個展が開催された。
いわば、デレク・ジャーマンが死の直前に発した「世界の終わりは来るのか?」という問いかけに対する、高橋の長い時間をかけた回答というべき写真集と写真展である。彼がその問いかけに誠実に対応していることが、掲載された写真から伝わってきた。だが、1992年に撮影された写真と2010年代の写真とが、うまく接続しているのかということについては疑問が残る。家や庭を「見る」ことに集中して、中判カメラで細部にまで目を凝らして撮影している旧作に対して、ぼんやりとした薄膜に包み込まれているような近作は、かなり違った印象を与えるからだ。そこに色濃く漂う死と荒廃の匂いは、強い吸引力を備えているが、以前の解釈とは異なる位相にある。むしろ、2つのシリーズを完全に切り離して見せるほうがよかったのではないだろうか。
2019/08/29(木)(飯沢耕太郎)