2019年10月01日号
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artscapeレビュー

中谷ミチコ「白昼のマスク/夜を固める」

2019年10月01日号

会期:2019/08/09~2019/09/01

アートフロントギャラリー[東京都]

中谷はレリーフを用いた作品を制作しているが、一般にレリーフが「浮き彫り」であるのに対し、彼女が使うのは凹凸を反転させた凹型レリーフ。思わず「沈み彫り」といってしまいそうだが、「沈み彫り」は地=背景面が彫った面より高い浮き彫りのことなので、鋳造過程における「雌型」といったほうがわかりやすい。雌型は通常ブロンズなどを流し込んで用を終えるが、彼女は雌型に透明樹脂を流し込んで固めたものを作品とする。だから透明な面をのぞくと奥に人物の顔や動物の姿が見えるが、それは凹凸がひっくり返った状態であり、いわば彫刻の「裏面」なのだ。ここに1つ反転の発想がある。

今回は新作として、内部に人物や草むらが見える黒い立方体の彫刻を出品している。これは「夜を固める」というタイトルのごとく、内部に雌型を配置して黒い半透明の樹脂で固めたもので、闇を立体化した彫刻といってもいい。闇を描いた絵というのはたまにあるが、闇を表した彫刻というのは見たことがないし、考えたこともなかった。そういえばかつて、なぜ光線があるのに闇線はないんだろうと疑問に思ったことがある。光のスポットを当てるように、闇のスポットを当てるとそこだけ暗くなるような、そんな闇線を発明したら、演劇やマジックショーでは重宝するはずだ。でもそれが不可能なのは、闇という実体があるのではなく、光がない状態を闇と呼ぶからだ。光がなければなにも見えないので、絵では黒色で表せるけど、彫刻では表しようがない。それを中谷は一種の情景彫刻として実現させたのだ。これがもう1つの反転の発想だ。「白昼のマスク/夜を固める」は2つの反転の発想で成り立っている。

2019/08/30(金)(村田真)

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