artscapeレビュー
見たことがないブリューゲル〜巨大3スクリーンによる映像の奇跡〜
2019年10月01日号
会期:2019/09/10~2019/09/16
六本木ヒルズヒルズカフェ/スペース[東京都]
絵にもさまざまなタイプがあって、写実的に描かれた人物や情景から背後の意味や寓意を読み解く物語画から、純粋に色彩や形態を楽しむ印象派や抽象画まで千差万別だが、何十人もの人物がそれぞれの仕草をしている様子を細かく描いたブリューゲルの絵などは、さしずめ前者の代表例といえるだろう。特にブリューゲルのように細密な物語画の場合、美術館などでざっくりながめるより、複製であっても大判の画集で丹念に見たほうがわかりやすい。もちろんじっくり観察したい部分を拡大して見ることができれば、なおいいのだが。
そんな夢を実現してくれるのがこれ。って、陳腐なCMのフレーズみたいだけど。ブリューゲルの代表作3点を、ス-パー解像度のデジタル画像で3面スクリーンに投影し、部分的に拡大したり比較したりして作品を解読していくというもの。その3点とは、《反逆天使の転落》《ネーデルラントのことわざ》《洗礼者聖ヨハネの説教》で、それぞれ主題はまったく異なるものの、いずれの画面も人物や動物や怪物が数十数百と入り乱れ、だれが主役なのか、なにが主題なのかわかりにくい混沌状態。ブリューゲル作品のおもしろさは、このように主役や主題を絵のなかにちりばめ、紛れ込ませることで、1枚の絵を謎解きの読み物にしてくれる点だ。だから「ウォーリーをさがせ!」みたいにつぶさに見てしまうし、いつまでも見飽きないのだ。
それを巨大な画像で解読してくれるのだから……あれ? なんか矛盾してないか。絵解きを楽しむのがブリューゲル作品の正しい見方なのに、デジタル画像で痒いところに手が届くように見せられると、あらかじめ答えを教えてもらうみたいで楽しみが半減しかねないではないか。やっぱり夢を実現してくれるのは大きなお世話かもしれない。でもおもしろかったし、一度は見ておくべきだ。
2019/09/12(木)(村田真)