artscapeレビュー
話しているのは誰? 現代美術に潜む文学
2019年10月01日号
会期:2019/08/28~2019/11/11
国立新美術館[東京都]
サブタイトルに「現代美術に潜む文学」とあるが、いわゆる文学作品を視覚化した美術ではなく、現代美術から読み取れる物語性、あるいはそれを読み解くリテラシーといった意味だろう。つまりここでは視覚的なおもしろさより、作品に秘められた意味や物語をいかに読み解くかが問題になる。出品作家は展示順に田村友一郎、ミヤギフトシ、小林エリカ、豊嶋康子、山城知佳子、北島敬三の6人。
最初の田村友一郎は、導入で車のナンバープレートを掲げている。なんだろうと思いながら次の部屋に行くと、ハンバーガーショップらしき建築模型が置かれ、隣の部屋にはナンバープレートがたくさん横たわり、最後の部屋にはハンバーガー店のロゴマーク、櫂、コーヒーカップの写真が展示されている。そこで流れてくるナレーションを聞くうちに、バラバラだった要素がひとつの物語としてつながってくるというインスタレーションだ。
小林エリカは暗い部屋のなかで、蛍光色のウランガラスによる$マークの彫刻や、手の先から炎が発する写真や映像、1940年の幻の東京オリンピックで計画された聖火リレーの地図などを展示。これも部分的に見ただけではわからないが、全体を通して戦争と核について物語っている作品であることが了解される。どちらも現代美術の見方(読み方)を知らなければ理解しにくい作品だが、読み解けば世界の見方が少し変わったような気になるだろう。逆にいえば、個々の写真や映像だけ見てもおもしろいものではないし、クオリティが高いわけでもない。
これとは対照的なのが、豊嶋康子と北島敬三だ。豊嶋はほぼパネル作品のみの展示。パネルの上に絵を描くのではなく、表面を削ったり、裏面に角材を貼り付けたりしている。なんだかよくわからないが、支持体であるパネルが作品になっていたり、裏表が逆転していたり、あれこれ考えているうちにおかしさがこみ上げてくる作品だ。これは全体としてひとつのストーリーを構成しているわけではないので、1点1点の作品と向き合う必要がある。
最後の北島は、東西冷戦時の東欧の人々、崩壊前のソ連の共和国、日本各地の風景を記録した3つの写真シリーズを展示。冷戦前後の東側の空気と、3.11前後の日本の風景の変化が読み取れる。それだけでも強く訴えかける力があるが、なにより目を引くのは1点1点の写真のもつ美しさだ。これまで北島の写真をまとめて見たことがなかったが、失礼ながらこんなに美しいとは思わなかった。それはこの展覧会の最後に置くという順序も関係しているに違いない。現代美術は読解力がなければ理解しにくいが、理解できればそれで終わりというわけではない。最後の砦はやはり芸術性なのだ。
2019/09/07(土)(村田真)