2020年06月01日号
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artscapeレビュー

普後圴写真集「WATCHERS」刊行記念展

2020年04月15日号

会期:2020/03/05~2020/03/29

コミュニケーションギャラリーふげん社[東京都]

普後圴は、見慣れたフライパンを宇宙的な広がりを持つ画像に見立てた『FLYING FRYING PAN』(写像工房、1997)以来、モノや人の日常性をはぎ取り、抽象性を帯びた関係項に還元する作品を制作・発表してきた。だが、今回ふげん社で展示された「WATCHERS」は、普後の仕事のなかではやや異質な作品に思える。何かを「見る人」の後ろ姿を撮影した本シリーズでは、彼らの頭部や衣服は、カラー写真で克明に描写されており、モノクローム作品のような抽象性、象徴性はあまり感じられない。それらはむしろリアルなドキュメントに見えるほどだ。だが、作品全体を見直すと、そこにやはり普後らしいコンセプチュアルな指向性を感じる。

このシリーズは1999年にPGIで、「見る人」というタイトルで発表されたことがある。その時には、今回「WATERFALL」としてくくられた、ナイアガラの滝と華厳の滝を「見る人」を撮影した写真による展示だった。エンパイア・ステート・ビルと東京タワーの展望台から「見る人」の写真を撮影し始めたのは、2001年9月11日のニューヨーク同時多発テロがきっかけだったという。この「CITY」のパートが加わることで、アメリカと日本という対立項だけでなく、自然と都市という異なる環境に向き合う人たちの後ろ姿というファクターが、明確に提示されるようになった。

それにしても、人の背中の表情がいかに雄弁なのかが、この作品を見ているとよくわかる。見えない正面に対する想像力が喚起されるためでもあるのだろう。被写体になった一人ひとりの生のあり方が、画面の細部から鮮やかに浮かび上がってくる。それとともに、彼らを見ているもうひとりの「見る人」である写真家、さらにその写真を見る観客という具合に連想が広がっていく。見飽きることのない、奥行きのあるシリーズといえる。なお、本展にあわせてふげん社から同名の写真集が刊行された。「WATERFALL」と「CITY」の二つのパートを手際よく対比させた、すっきりとした造本の写真集である。

2020/03/07(土)(飯沢耕太郎)

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