artscapeレビュー

高橋宗正「糸をつむぐ」

2020年04月15日号

会期:2020/02/12~2020/03/23

PGI[東京都]

写真家にとって、撮影の機材を変えるということがとてもいい方向に働くことがある。高橋宗正の場合がまさにそうだった。高橋は、3年ほど前から8×10インチ判の大判カメラを使い始めた。友人から「水に浮くもの」を撮ったらいいのではないかと言われて、その言葉がずっと引っかかり、大判カメラを使えばいいのではないかと思いついたのだ。そんな矢先、たまたま8×10インチ判カメラを売りたいと思っていた人に出会い、話がつながった。何かが動くときは、偶然のように見えて、それを超えた力が働くのだろう。

今回の「糸をつむぐ」展には30点のモノクローム作品が出品されている。テーマはさまざまで、風景、オブジェ、「結婚、出産、子育て」など、かなり多様な写真が含まれている。「水」のイメージも多い。その「水」も流れる水、止まる水、震える水、染み出す水などいろいろだ。「何か」を撮ろうとしているのではなく、その「何か」に向かう心の動き、繊細なセンサーの反応に、むしろ素直に呼応してシャッターを切っているように見える。元々、高橋は撮り手としての能力が抜群に高い写真家だったが、そのセンスに頼り切らずに、慣れない機材のメカニズムをあいだに挟むことで、逆に写真の説得力が増した。それでいて持ち前の軽やかさは失われていない。彼にとっても、手応えのあるシリーズに仕上がったのではないだろうか。

「水に浮くもの」の探求は、もう少し続けてほしい。つむいだ糸が、何か大事な絵模様を織り上げていきそうな予感がする。

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