artscapeレビュー

竹山団地

2020年04月15日号

[神奈川県]

群建築研究所を率いた緒形昭義(1927-2006)が設計した横浜の竹山団地を見学した。緒形は東京大学を卒業後、横浜国立大学で教鞭をとり、寿町総合労働福祉センター(1974)や藤沢市労働会館(1975)などを手がけたモダニズムの建築家である。また卒業設計は、敗戦直後の日本らしいテーマの「皇居前広場に建つ文化会館」だった。竹山団地は、直方体の住宅棟をただ並行配置したものではなく、千里ニュータウンと同様、初期ニュータウンの理想を追求した建築群となっており、かなり個性的である。



俯瞰で見た竹山団地のセンターゾーン

特に1972年に完成したセンターゾーンは、大きな人工池を設け、ほかの団地にはない独特な環境を形成することに成功した。設計を依頼され、現地を視察したとき、ちょうど谷あいだったので池を提案したという。人工池の維持管理はそれなりに大変だったようだが、その周辺に店舗群、スーパーマーケット、郵便局、集会所、学校、幼稚園、病院、公園などの各種施設を配し、いずれも現役なので、全体として良好な雰囲気が保たれている。



スーパーマーケットの天井



郵便局の外観

いわばモダニズムが輝いていた時代の建築である。ロンドンの集合住宅群《バービカン・エステート》なども想起させる。またデザインをよく観察すると、ル・コルビュジエ など、モダニズムの影響が随所に散りばめられている。例えば、ピロティや屋上庭園。とりわけ前者は人工池に対し、足を突っ込んだような柱群もあって、忘れがたい風景を生みだした。駐車場からスーパーマーケットに降りる階段に設けられたランダムな開口は、後期のル・コルビュジエ風である。



竹山団地のピロティ



人工池に浮かぶスロープが絡まりあう構築物



駐車場からスーパーマーケットに降りる階段

また巨大建築を見慣れたわれわれから見ると、ヒューマンなスケールがかわいらしくも感じられる。2つのスロープが互いに絡みあう丸味を帯びた彫塑的な構築物、店舗エリアの円窓やグリッド状の天井、高さをズラした窓、住棟へのアーチ状の入口、眺めを切りとる階段室の開口、台形のトイレなど、様々な細部の意匠が目を楽しませる。決して均質な団地ではない。改修によって色が塗られたり、バルコニーが室内化しているところもあるが、おおむね当初の状態が保たれているのも嬉しい。



竹山団地案内図

2020/03/13(金)(五十嵐太郎)

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