artscapeレビュー

白 の中の白 展 白磁と詞という実験。

2020年04月15日号

会期:2020/03/13~2020/07/05(※)

無印良品 銀座 6F ATELIER MUJI GINZA Gallery1[東京都]

※4月11日より臨時休館

本展は小規模ながら、白磁に焦点を当てたユニークな展覧会だ。白磁とは白い磁器。もともとは中国で誕生した青磁と白磁の歴史にもさらりと触れつつ、本展でハイライトとするのはバウハウスで発達したモダンデザインの白磁である。それについて本展では「白無地の価値を『発見する』」と表現している。主な展示品はティーポットとカップ&ソーサーで、白磁の素地と、お茶を淹れて飲むという機能は共通しながら、さまざまな形状や曲線の違いを見ることができた。例えばヴァルター・グロピウスがデザインしたティーポットとカップ&ソーサーには、どことなく建築的な佇まいを感じてしまう。

カジミール・マレーヴィチ、デザインのティーポット(1923) ©知識たかし

またロシア・アバンギャルドのひとつと言われる「シュプレマティズム」を宣言した芸術家、カジミール・マレーヴィチがデザインしたティーポットやカップも大変興味深い。代表作《White on White(白の上の白)》を彷彿とさせる形状で、まさに彼の世界観を表現していた。そして日本の白磁として取り上げられたのは柳宗理と森正洋の食器である。彼らは言うまでもなく、日本の食卓に白磁をもたらした代表的デザイナーだろう。本ギャラリーではモダンデザインを軸に企画展を開催していることから、本展でもいわゆる日本の産地に多くある、窯元や作家自身が形を考えてつくる白磁は登場しない。その点にやや物足りなさを覚えてしまうのは私だけか。

したがってモダンデザイン以前の白磁も登場しないのである。そもそも白磁(陶磁器)は6世紀の中国で誕生し、11世紀の宋時代に目覚ましい発展を遂げた。この時代に官窯(中国宮廷の窯)となった景徳鎮窯で染付を盛んに生産したことから、中国磁器=染付のイメージが広まるが、実は青磁を得意とする窯、白磁を得意とする窯などさまざまな窯が誕生した。この中国磁器に大きく影響を受けたのが、日本初の磁器産地となった有田だ。有田でも染付を多く生産し、のちに色絵も誕生するのだが、やはり青磁や白磁も生産していた。一方で15〜16世紀の李氏朝鮮では、染付の原料である呉須が産出されなかったことなどから、生産されたのは主に白磁だった。いわゆる「李朝白磁」である。これが東洋における白磁の大きな流れだ。

とはいえ、白磁に対する解釈はさまざまだ。むしろ本展で白磁を際立たせていたのは、タイトルにもあるとおり「詞」である。展示室の外壁には、日本の前衛詩人、北園克衛が残したコンクリートポエトリー《単調な空間》が印象的に用いられていた。モダンデザインの白磁に対する、この解釈はなかなか新鮮だった。

展示風景 ATELIER MUJI GINZA Gallery1 ©ATELIER MUJI GINZA 2020

北園克衛『煙の直線』(國文社、1959) ©ATELIER MUJI GINZA 2020


公式サイト:https://atelier.muji.com/jp/exhibition/680/

2020/04/06(月)(杉江あこ)

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