artscapeレビュー
油津商店街
2020年04月15日号
[宮崎県]
菊竹清訓が設計した《都城市民会館》の保存問題が最初に起きて以来なので、およそ10年以上ぶりに宮崎県を訪れた。もっとも、新型コロナウィルスの影響で、見学しようと思っていたほとんどの公共建築が閉鎖されていた。坂倉準三による色タイルが印象的な《宮城県総合博物館》(1971)、岡田新一による石材を多用する重厚な《宮崎県立美術館》(1995)、安井建築設計事務所による列柱廊をもつ《宮崎県立図書館》(1987)などである。
そこで宮崎駅から約1時間半の遠出をして、日南市の油津に足を運んだ。あまり知らなかったが、町おこしで注目されている、有名な商店街がある。駅舎は真っ赤に塗られ、「Carp」の文字も刻まれており、日南市に半世紀以上キャンプを張っている広島東洋カープを応援している街だった。また駅前を歩くと、閉ざされたままの店舗は多いが、途中の駅に比べると、はるかに店の数が多く、かつてここが港で栄えていたこともうかがえる。40年前までは、マグロ漁や杉材の積み出しで賑わっていたらしい。
日南市の市街地活性化事業によって、2013年に木藤亮太がテナントミックスサポートマネージャーに選ばれ、ここで暮らしながら、様々な空き店舗の活用を実践している。カフェのリノベーション、ABURATSU GARDEN(コンテナ群による小店舗)、IT企業を誘致したオフィス、ゲストハウス、レコードを自由にかけるコミュニティ・スペースなどだ。
他にも油津では、2017年に《ふれあいタウンIttenほりかわ》(商業施設+医療介護施設+子育て支援センター+市民活動のスペース+居住施設)が誕生し、運河沿いの堀川夢ひろばでイベントを行ない、街の歴史や見所を説明する看板を設置している。建築のプロジェクトとしては、多世代交流モールのコンペが行なわれ、設計者に水上哲也が選ばれ、2015年にオープンした。鉄骨造のスーパーマーケットの1スパンを減築によって間引くことで、二分割し、あいだに中庭を設け、両サイドをそれぞれ多目的スタジオなどの集会スペースと飲食スペースに変えたものである。油津では、点を線に、そして面に広げようとしている街づくりが進行中だった。
2020/03/10(火) (五十嵐太郎)