artscapeレビュー

ポスト・コロナとシアターコモンズ’20

2020年04月15日号

会期:2020/02/27~2020/03/08

港区エリア各所[東京都]

新型コロナウィルスの影響により、公演の自粛が増えてゆくなか、幸い、シアターコモンズが企画した、小泉明郎の『縛られたプロメテウス』を体験することができた。実はこれが二度目なのだが、一度目のあいちトリエンナーレ2019では、機器の不具合によって、VRの半分はカラフルな自然ののどかな風景を見ていたという未消化の体験だったため、もう一度完全なかたちで見ておきたかった作品である。やはり、脚本=朗読されるテキストの内容と、後半でその意味が明らかになるコラボレータの選択が傑出している。おそらく、今後もVR技術が日々進化するので、これよりもインパクトのある映像体験は簡単につくられるだろう。いや、すでに存在している。だが、作品がトータルでもたらす世界観の強度は減じないのが、まさにアートの価値だろう。


また同日の夕方、リーブラホールにて、ジルケ・ユイスマンス&ハネス・デレーレ『快適な島』を鑑賞した。壇上の二人が一言もしゃべらず、立ったままスマホを操作するだけなのだが、ドキュメタリー映像をその場で編集・上映するドキュメンタリー演劇だった。鉱石開発によって世界中の資本主義と接続し、翻弄された小さな島のテーマも興味深いが、上演形式そのものが考えさせられる作品である。考えてみるとこの後、筆者は演劇をひとつも見ていない。現時点ではこれが、最後の観劇だった。


改めてこれらの作品を思いだすと、いずれもポスト・コロナの作品としても興味深いように思われた。すなわち、小泉の作品は現存しない世界をVRで体験させており、ゴーグルの機器が一般化すれば、会場に足を運ばなくても成立するかもしれない。しかし(ネタバレになるので、ここでは詳しく書かないが)後半の展開はやはり人が集まることに意味を持たせる演出になっている。

またスマホを操作し、その画面を鑑賞するドキュメンタリー演劇の『快適な島』は、類似した例だと、内容はフィクションだが、父が行方不明の娘を捜索する『search/サーチ』(2018)のように、パソコンの画面だけを用いた映画作品があった。これはリアルタイムで操作しているライヴ感さえ確保できれば、それぞれの自宅で十分に鑑賞ができるかもしれない。自粛ムードの出口がしばらく見えないなか、上演の方法も問われるだろう。


公式サイト:
小泉明郎「縛られたプロメテウス」
https://theatercommons.tokyo/program/meiro_koizumi/
ジルケ・ユイスマンス&ハネス・デレーレ「快適な島」
https://theatercommons.tokyo/program/silke_huysmans_hannes_dereere/

2020/03/06(金)(五十嵐太郎)

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