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BankART Life Ⅵ 都市への挿入 川俣正

2020年10月01日号

会期:2020/09/11~2020/10/11

BankART Station、BankART Temporary、馬車道駅構内[神奈川県]

ヨコハマトリエンナーレの連携企画「BankART Life」も、もう6回目。ヨコトリ本体の開催が危ぶまれていたこともあり、スタートはヨコトリより約2カ月遅れとなった。今回は、BankARTが連携するきっかけとなった第2回ヨコトリのディレクターを務めた川俣正の個展。 BankARTでの川俣の個展は2012年に続いて2回目となる。んが、パリ在住の本人はコロナ禍のため来日できず、リモート制作となった。

メイン会場のBankARTテンポラリーは、BankART1929のいわば「発祥の地」。BankARTは2004年の設立から4年間、この旧第一銀行だった建物を使っていたが、2005年、運河沿いにあった日本郵船の倉庫の一部を借りられることになり、2008年の第3回ヨコトリを機に全面移転。ところが2018年に倉庫が解体されることになり、今年再び旧第一銀行の建物に戻ってきたのだ。そのテンポラリーの1階ホールと、築90年近い歴史を刻む半円形の先端部分(それ以外の建物本体は復元)がインスタレーションの舞台となる。

ホールでは、工事現場のフェンスなどに用いる金属平板を天井に張り巡らせ、建物の先端部分には同じ金属平板を覆い被せるように重ねている。川俣といえば約40年前のデビューから材木で建物を覆うインスタレーションで知られてきたが、そのあとプレハブや古新聞、椅子、窓枠、運搬用のパレットなど、素材は材木に限らず、その場にある身近なもの(新品ではなく廃品やリサイクル品)を使用してきた。しかし骨組みは別にして、金属素材を使うのは珍しい。これは川俣が昨年ここをリサーチしたとき、近くに市役所が移転してきたのに伴い周辺一帯が工事中で、金属平板のフェンスが目についたからだ。現在は近所に工事中のフェンスは見られないので、ここだけ取り残された感がある。別の見方をすれば、約1年の時差をもってBankARTに金属平板が再集結したともいえる。

もう一点いつもと異なるのは、材木だと水平方向に流れるように組んでいくことが多いのに対し、今回の先端部分のインスタレーションは金属平板を垂直に向け、下に行くほど膨らむように釣鐘型に組んでいること。そのため遠目に見ると、滝のようでもあり、蓑のようでもあり、また金属素材も相まって鎧の下半身のようでもある。このインスタレーションのほぼ真下に位置する馬車道駅のコンコースにも、天井に届くほどの高さに組んだ骨組みに金属平板を被せ、人が通行できるよう下部に出入口を設けたインスタレーションが設置されている。地上と地下で相似形が共鳴しているのだ。



[筆者撮影]


興味深いことに、初期のドローイングを見ると、地上のほうは先端部分だけでなく、両サイドが左右に広がり、建物の半分近くを包み込むような形として構想されていた。じつはこのインスタレーション、屋外での展示のためなかなか許可が下りず、実際に着手したのは会期が始まってからで、完成したのは1週間がすぎた今日、19日のことなのだ。川俣らしい「ワーク・イン・プログレス」だが、当初の構想を縮小したのは、当局の許可が下りなかったせいかもしれない。でもそのおかげで、地上と地下の相似関係が生まれた(ちなみに、地下のインスタレーションの近くには、ホームレスが傘を集めてつくった「アンブレラハウス」があり、好対照を見せていたが、今日行ってみたらなくなっていた。追い出されたんだろうか)。

このように、都市に異物を持ち込むことを「都市への介入」と呼ぶが、今回のタイトルは介入ならぬ「挿入」。その意図については聞いていないが、介入には無許可で強引に入れ込むニュアンスがあるのに対し、挿入は相互の了解のもと優しく挿し入れるイメージがある(もちろんこれは主観的なもので、ムリヤリ挿入するやつもいるが)。今回の場合、あくまで合法的に作品を入れたという意味で「挿入」としたのかもしれない。あるいは、釣鐘型に屹立する作品を「ファルス」にたとえるなら、馬車道の地下から立ち上がったファルスが天井を突き破り、そのまま地上に突き出したかたちと見ることも可能だろう。「挿入」からはえろえろ連想できるなあ。



[筆者撮影]


その馬車道駅から2つ横浜寄りの新高島駅に直結するBankARTステーションでは、川俣のこれまでの主要プロジェクトのマケットやドローイング、ドキュメント写真、カタログなどを展示。ああ、安斎重男さんが写っている。てか、初期の写真やカタログ図版の多くは安斎さんが撮影したものだ。

2020/09/19(土)(村田真)

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