artscapeレビュー

立木義浩「Afternoon in Paris / 昼下がりのパリ」

2020年10月01日号

会期:2020/08/26~2020/09/19

Kiyoyuki Kuwabara AG[東京都]

立木義浩(1937-)は、いうまでもなく1960年代以来、広告、ファッション、ポートレート、ドキュメントなど、さまざまなジャンルの第一線で活動してきた写真家である。一方で、彼は仕事ではない普段着の写真というべき街のスナップショットもずっと撮り続けてきた。このところ、まるで古い日記帳を開くように、そんな写真群を発表する機会が多くなってきている。東京都中央区東神田(馬喰町)のKiyoyuki Kuwabara AGでの今回の個展でも、1966年以来何度となく訪れたというパリで、折に触れて撮影したモノクローム写真22点(ほかにカラー写真のヌードが1点)を出品していた。

未発表作品を含むモノクローム写真は、すべて6×6判のフォーマットで撮影されている。セーヌ川、公園、彫刻家のアトリエ、ショーウィンドウなど、写っているのは、いわゆる「パリ写真」の典型とでもいうべき光景である。だが、被写体を堅苦しくなく、あまり構えずに画面におさめていく手つきに、長年の練達の技が発揮されている。好奇心と批評性との見事な融合というべき写真群を見ていると、まさに「昼下がりのパリ」の空気感が、写真から染み透ってくるように感じる。馬喰町の古いビルの一室にある、会計事務所を兼ねたギャラリーの雰囲気と、写真から発するトーンとが、とてもうまく溶け合っていた。

Kiyoyuki Kuwabara AGの近くには、Kanzan Gallery、Roonee 247 Fine Artsなど、他にもいくつか写真作品をよく扱うギャラリーがある。馬喰町周辺の写真展は、これから先も期待できそうだ。

2020/09/17(木)(飯沢耕太郎)

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