artscapeレビュー

梁丞佑「The Last Cabaret」

2020年10月01日号

会期:2020/08/28~2020/09/19

ZEN FOTO GALLERY[東京都]

本展は、韓国出身の写真家、梁丞佑(ヤン・スンウー)の新境地といえる。新宿・歌舞伎町を根城とする人々をモノクロームのスナップショットで捉え、2016年度の第36回土門拳賞を受賞した『新宿迷子』のような、ハードコアな人間ドキュメントが彼の真骨頂だが、今回の写真のテーマはまったく意表をつくものだった。たまたまオーナーと知り合ったことで、新宿で昭和30年代から営業してきたグランドキャバレー「ロータリー」を撮影できるようになったのだ。それから1年余り、最年長のホステスが72歳という、昭和の香りが漂うキャバレーの人間模様を撮り続けた成果が、今回の「The Last Cabaret」である(写真展にあわせて、同名の写真集も刊行)。

デジタルカメラで撮影したカラー・プリントによる発表も初めてということだが、そのフラットな色味や質感と、細部まで驚くほどくっきりと浮かび上がらせることができる描写力が被写体にぴったりと合っていて、見応えのある展示になっていた。梁の人柄が出ているのだろうか。かなり際どい場面もあるのだが、全体としてポジティブな雰囲気に仕上がっている。キャバレー特有のインテリアや、モノの丁寧な描写からも、華やかだがちょっと寂しげな雰囲気が伝わってくる。

今年2月、ということはコロナ禍が深刻化する直前に、「ロータリー」はその長い歴史を閉じた。梁のこの仕事は、その最後の日々を記録した貴重なメモリアルになった。「内」にうごめく人間たちの姿を探求していくという新たな方向性は、これまで「外」の世界に目を向けてきた彼にとっても転機となるかもしれない。今後の展開が楽しみだ。

2020/09/19(土)(飯沢耕太郎)

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