artscapeレビュー

元田敬三「渚橋からグッドモーニング」

2020年10月01日号

会期:2020/09/10~2020/10/04

コミュニケーションギャラリーふげん社[東京都]

元田敬三は2017年7月16日から、コンパクトカメラにカラー・ポジフィルムを詰め、逗子の自宅の周辺を撮影し始めた。写真は日々、彼の行動範囲に沿って撮り続けられ、家族、長年講師を勤めている写真学校、旅の途中の光景、たまたま出会った写真家たち(倉田精二、橋口譲二、石内都など)へも撮影対象を広げていった。日付を写し込めるコンパクトカメラを使っているので、まさに「写真日記」といってよいだろう。ちなみにタイトルの「渚橋」というのは、家の近くの防波堤近くの橋で、毎朝の散歩の途中に、そこで海辺の風景に向けて「グッドモーニング」と挨拶するのだそうだ。

元田といえば、路上で出会ったテンションの高い人物たちを、中判カメラで撮影し、モノクロームでプリントしたストリート・スナップ写真で知られている。それらの仕事と今回の「写真日記」とはまったく異質のものかといえば、そうではなく、根のところでつながっているのではないかと思う。今回の「渚橋からグッドモーニング」は、ストリート・スナップではあえて切り落としていた、写真のフレームの外にとめどなく広がっていく世界をできる限り取り込み、彼の生とリンクさせていく試みといえる。50代になり、写真家として一皮むけたことで、いわば全方位的な写真の世界を展開できるようになったということだろう。

むろん、今回の展示は中間報告というべきもので、このシリーズはさらに続いていくはずだ。その発表の形も、ただプリントを並べるだけではなく、もっと違ったものになっていくのではないかと思う。9月19日にふげん社で開催したギャラリートーク(聞き手、飯沢耕太郎)では、2020年に撮影した写真を、スライド映写機で上映して見せていた。時間の配分や写真の選択はまだ未完成だったが、スライドショーというのも大いに可能性がありそうだ。

2020/09/19(土)(飯沢耕太郎)

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