artscapeレビュー
カタログ&ブックス | 2020年10月1日号[テーマ:都市]
2020年10月01日号
テーマに沿って、アートやデザインにまつわる書籍の購買冊数ランキングをartscape編集部が紹介します。今回のテーマは、ワタリウム美術館(東京都)で開催中の「生きている東京展」や国立新美術館(東京都)で開催中の「MANGA都市TOKYO ニッポンのマンガ・アニメ・ゲーム・特撮2020」にちなみ「都市」。このキーワード関連する、書籍の購買冊数ランキングトップ10をお楽しみください。
「都市」関連書籍 購買冊数トップ10
1位:STUDIO VOICE vol.415(2019September)We all have Art
ジャンルレスなカルチャー誌。インドネシアのアートコレクティブ、中国SF、東南アジアのフィルムメーカーたち、ベトナム大都市のビジュアルカルチャーなどを取り上げる。
2位:大正昭和レトロチラシ 商業デザインにみる大大阪
大正14年(1925)、東京市を抜いて日本第1位、世界第6位のマンモス都市に膨張した大阪市。「大大阪」と称された華やかな時代の秀選チラシ約360点を、「買う」「食べる」といった6つのテーマに分けて収録する。
3位:山内マリコの美術館は一人で行く派展 ART COLUMN EXHIBITION 2013-2019(Bros.books)
アート界とは無縁の作家が行った、7年分の美術展の記録! 新時代、新感覚の、やさしいアート入門書。 ありふれた地方都市に生きる女の子を描いた小説『ここは退屈迎えに来て』で、鮮烈なデビューを飾った山内マリコ。瑞々しくリアルな筆致で心の機微を捉える彼女の小説は、同世代を中心に圧倒的な共感を呼ぶ一方、エッセイでは抜群のユーモアセンスを発揮。コラムやレビューの依頼が絶えない作家です。大阪芸術大学を卒業し、美術館めぐりが趣味だった彼女は、2013年に雑誌『TV Bros.』で、美術展をテーマにした連載をスタートします。主に一人で、自腹で美術館の企画展に行き、作品の紹介はもちろん、芸術家の背景にも思いを巡らせながら、感じたことをそのまま書く。彼女のユーモラスな文体は、ときに小難しいと思われがちなアートの魅力を、身近な存在として伝えてくれます。
4位:東京ミュージアム散歩 そうそう、行きたいな、と思ってた! 11の街の51の美術館と博物館へ。(LMAGA MOOK)
東京は日本でもっとも豊富なアート体験ができる恵まれた都市。その時々で、魅力的な展覧会も尽きません。そんな中でも、新設やリニューアルなど、ニュースのある美術館・博物館をピックアップして11エリアへ誘います。さらに、近隣の知られざるミュージアムをめぐり、散歩の途中においしい名店やカフェ、おみやげにも立ち寄って、どっぷり文化・芸術に浸る一日をご提案します。いまこそ行きたい、何度でも行きたい保存版です。
5位:都市は文化でよみがえる(集英社新書)
文化(アート)は都市再生に多大な影響を与えるものである。しかし、アート単独、特に現代アートによる地域復興には限界がある。アトラクティブな美術館の建設やアートイベントは一時的な集客であり、その地に住む人々にとって真に魅力的な地域となるかは別問題だ。都市の再生や復興は、もともとそこにある文化や歴史、人々の営みを無視して成すことはできない。本書では、金沢、岡山・瀬戸内エリア、前橋、大阪、ヨーロッパ、香港など、国内外のケースを参考にしながら、アートと都市の関係性を考える。現代美術家の会田誠、フランスの元文化大臣ジャック・ラングとの対談も収録。
6位:公の時代
「アーティスト」が消失した次は、「個」が消える番だ。
復興、オリンピック、芸術祭、都市再開発、表現の自由──“ブラックボックス化”した大正の前衛アートを手がかりに、開かれた社会(パブリック)と「個」を探る画期的な公共/芸術論! 津田大介、青木淳、福住廉の三氏も対話に参加。
ウェブ版「美術手帖」での好評連載を全面改訂し、新たな論として更新。「あいちトリエンナーレ2019」の“公開”検閲・展示中止を受けた対談も急遽追加。
大きなアートフェアや芸術祭に率先して「配置」されるアーティスト、民営化されて「マジョリティ」しか入れなくなった公園や広場、「滅私奉公」して作品を社会から閉ざしていく市民のタイムライン……「みんな」「一般」の名のもとに、トップダウン/ボトムアップ双方から個人が侵食されていくとき、新しい公共圏と自由をどうつくっていくか? 「個と公」の問題を、アーティストとアートの存在意義をテコにして実践的に考える。
7位:憧れのインスタグラマー20名に学ぶ美しい写真術
ポートレート、風景、旅、動物、都市夜景…。多彩なジャンルで活躍している人気フォトグラファーの人気の秘密に迫る。インスタグラムの活用方法や、美しい写真の撮り方&仕上げ方、Q&A、使用カメラやレンズなども収録する。
8位:印象派の歴史 下(角川ソフィア文庫)
1874年春、ついに第一回「印象派展」が幕を開けた。自然や都市への新たな眼差しを共有する若き画家たちが自らつくり上げるグループ展──それは事件だった。観衆の戸惑い、嘲笑、辛辣な批評の一方で、のちの近代美術史に刻まれる数々の名作が産声をあげていく。カフェでの激論、支援者の拡大、仲間の死、そしてゴッホ、ゴーガン、スーラら次世代への継承。全八回の印象派展を丹念に辿る通史の決定版。詳細な文献目録を収録。
9位:デジタルカメラによる野鳥の撮影テクニック
単なるカメラの扱い方を紹介するのではなく、野鳥を撮影するための基礎知識や生態を紹介し、臨機応変に野鳥撮影ができるように解説します。また、都市公園・農耕地・森林・山岳・高山・海岸・干潟などの環境別の機材や装備、撮影法の他、実例を挙げて個々の野鳥の撮影テクニックを紹介します。
10位:杉本博司 瑠璃の浄土 京都市京セラ美術館開館記念展
2020年3〜6月に京都市京セラ美術館で開催の展覧会の図録。写真家・杉本博司が「瑠璃の浄土」のタイトルのもと、仮想の寺院の荘厳を構想した作品等を収録する。三木あき子らの論考も掲載。折込みページあり。
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artscape編集部のランキング解説
オリンピックの開催がコロナ禍の影響で延期になった2020年夏の東京。この数年間あちこちで進んでいた都市開発もクライマックスを迎えるなか、「生きている東京展」や「MANGA都市TOKYO ニッポンのマンガ・アニメ・ゲーム・特撮2020」をはじめとして、東京という都市の姿をさまざまな角度から見つめ直す展覧会が現在数多く開催されています。
今回のテーマ「都市」のランキングでは、東京のみならず大阪やアジア諸国など、都市とそこで紡がれる文化のアイデンティティにクローズアップした書籍・雑誌が並びました。1位の『STUDIO VOICE vol.415』は、vol.413での音楽、vol.414でのファッションに続いてアジアのアートの現場を取材したアジア特集三部作の完結編。世界的ヒットを記録する中国発SF『三体』の著者インタビューを筆頭に、文学を含めたアジアの芸術事情の先端に迫ります。各都市の空気感やざわつきを伝えるハイクオリティな写真や誌面構成にも注目したいところ。『大正昭和レトロチラシ 商業デザインにみる大大阪』(2位)は、当時東京を抜いて活気のあったという商いの街・大阪のポスターや商業印刷物を集めたビジュアルブック。闊達な描き文字やコントラストの効いた配色のグラフィックを眺めているうちに、気持ちもどこか上向きになってくる一冊です。
都市(≒公共空間)と芸術の接続や、そこから生じるジレンマを題材とした書籍も目立ちました。金沢や瀬戸内、ヨーロッパや香港など国内外のアートプロジェクトやまちづくりの事例を見ながら、そこに住む人にとっても真に魅力的な都市のかたちを芸術や建築の力とともに模索する新書『都市は文化でよみがえる』(5位)は、設立以来都市にまつわる研究助成を行なう大林財団の理事長であり、建設会社大林組の経営も務める大林剛郎の視点によるもの。一方で、アーティストの炎上騒動や展示の自主規制といったトピックを端緒に、「みんなのため(=公)」が「個」よりも優先される近年の日本社会の空気について語る対談本『公の時代』(6位)では、公共空間というものの曖昧さが浮き彫りにされています。
みなさんの暮らす都市はこの数年でどのように変わったでしょうか。逆に変わらないものは何でしょうか。都市空間とアートのこれからを考える手立てとして、今回ランクインした本を一助にしていただければ幸いです。
2020/10/01(木)(artscape編集部)