artscapeレビュー

竹之内祐幸「距離と深さ」

2020年10月01日号

会期:2020/08/26~2020/10/10

PGI[東京都]

竹之内祐幸が展覧会のリーフレットに、本作「距離と深さ」の撮影の動機についてこんなコメントを寄せていた。彼は「友人に、離れ離れになってしまう恋人の写真」を撮ってアルバムにしてほしいと頼まれた。「一緒にいた時間を忘れないように」という依頼を受けて、「自分だったらどんなアルバムを作るだろう」と考える。その答えは「いろんな場所で撮った小石や動物や風景が、まるでひとつの世界に感じられるようなアルバムを作れたら」ということだった。

本展に出品された写真を見ていると、竹之内がまさにそんな「アルバム」を丁寧に編み上げようとしているのがわかる。展示されている写真は、風景、人物、ヤモリや昆虫や小鳥、身近なモノたちなどさまざまだが、そこにある親密な空気感は共通している。被写体と写真家の間にはいうまでもなく「距離」があるのだが、それには物理的な「距離」と心理的な「距離」の2種類があり、いうまでもなく竹之内は後者を基準にしてシャッターを切っている。その「距離」を測る物差しの精度はとても高く、彼の柔らかだが精密な観察力がうまく活かされていると感じた。

ただ、「鴉」(2015)、「The Fourth Wall/第四の壁」(2017)と、PGIで開催された彼の個展を観てきて、いい写真作家なのだが、どこか決め手に欠けるような気がしている。主題、スタイル、どちらでもいいので、もう少し「何か」に集中した作品を見てみたい。彼の作品から、「なぜ撮るのか」という動機がうまく伝わってこないもどかしさがあるのだ。

2020/08/29(土)(飯沢耕太郎)

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