2020年12月01日号
次回12月15日更新予定

artscapeレビュー

2020年10月01日号のレビュー/プレビュー

Unknown Image Series no.8 #2 鈴木のぞみ「Light of Other Days―土星の環」

会期:2020/07/31~2020/08/21

void+[東京都]

アンティークな鼻眼鏡のレンズに文字がプリントされている。文字は英文で、ベルファスト出身のSF作家ボブ・ショウが、短編『Light of Other Days』の中で引用したアイルランドの詩人トーマス・ムーアの詩の一節だという。同じく骨董市で入手した虫眼鏡のレンズにプリントされているのは、シェイクスピアの『冬物語』のミニアチュール本から撮ったもの。年代物の眼鏡に文字が映るといえば米田知子を思い出すが、鈴木は印画紙にではなく実物の眼鏡のレンズ面に直接プリントする。イメージではなく物質だから、フェティシズムをくすぐるのだ。

ほかにも、アイリッシュ海を渡るフェリーから見えたであろう水平線を焼き付けた丸い舷窓、1851年のロンドン博の会場となったクリスタルパレスをプリントした眼鏡、子供が太陽光を集めて焼くのとは逆に、レンズに太陽を焼き付けた虫眼鏡など。眼鏡にしろカメラにしろ望遠鏡にしろ、レンズで光を調節することで鮮明なイメージが得られる。そのイメージをレンズ表面に凍結する試みともいえるかもしれない。ちなみに、今回の素材とモチーフは、ベルファストとロンドンに滞在していたときに得たものだそうだ。イギリスには文明・文化の掘り出し物がたくさんあるからね。

それにしても昔の眼鏡は小さい。とりわけ鼻眼鏡は日本人にとっても小さく感じるが、鼻の高い西洋人にはうまくはまったのかもしれない。あるいは鼻を挟むだけでなく、眼窩に食い込ませるようにかけていたのではないか。いずれにせよレンズがいまより眼球に近く、まさに身体の延長物だったことを思わせる。だとすれば、鈴木の次の展開は、眼球内の水晶体か網膜そのものに画像を焼きつけることだろう。窓、鏡、眼鏡と徐々に身体に近づいてきた素材がとうとう体内に入り込む。って、そこまでいくとホラーでしょ。

2020/08/21(金)(村田真)

ベゾアール(結石) シャルロット・デュマ展

会期:2020/08/27~2020/11/29

メゾンエルメス8階フォーラム[東京都]

オランダの女性アーティスト、シャルロット・デュマは、2014年から北海道、長野、与那国島など、日本各地に群生する野生馬を撮影し、作品化してきた。2016年にはGallery916(東京)で、写真展「Stay」を開催しているが、今回はオブジェや映像作品を含めた広がりのある展示になっていた。メゾンエルメス フォーラムの展覧会は、いつも行き届いたインスタレーションなのだが、今回は特に作品の構成・配置がうまくいっていたと思う。

馬は神話的といってよい動物で、時にその雄々しさや生殖力、パワフルな躍動感などが強調される。デュマのアプローチはその対極というべきもので、馬たちはむしろ優しげに人に寄り添い、大気と同化し、静かにたたずむ姿で描かれている。今回の展示では、埴輪、木馬、瓢箪、馬轡、腹帯、さらに馬の胃の中に形成される丸い結石などのオブジェを効果的に配することで、人と馬とが強い絆で結ばれながら共生してきた歴史を、さまざまな角度から辿り直していた。与那国島の少女「ゆず」と彼女の愛馬「うらら」が登場する《潮》(2018)、馬の衣装を身につけたデュマの娘が、オランダから与那国島を訪れるロード・ムービーの《依代》(2020)の2つの映像作品も、撮影・編集ともに素晴らしい出来栄えである。日本の在来馬をテーマにしたプロジェクトはまだ進行中のようなので、さらなる展開が期待できそうだ。

2020/08/27(木)(飯沢耕太郎)

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遠見の書割─ポラックコレクションの泥絵に見る「江戸」の景観

会期:2020/06/24~未定

JPタワー学術文化総合ミュージアム インターメディアテク[東京都]

先日まで日本民藝館で柳宗悦コレクションの泥絵を展示していたが、今度は東大が所蔵しているポラック・コレクションの泥絵展だ。泥絵とはその名のとおり泥絵具で描かれた絵のことだが、江戸時代の洋風画の1ジャンルであり、稚拙ながら遠近法を駆使したリアルな描写を特徴とする。今回は東海道五十三次を含む泥絵と、富士山や大名屋敷が見える江戸の街を描いた都市景観図が中心。いずれも藍色が多用されているが、これは1820年代にプロイセンから化学染料の藍(プルシャンブルー)が持ち込まれ、植物染料より便利ということでふんだんに使われるようになったという。

富士山にしろ屋敷にしろ、人にしろ木にしろ、描写はすべて簡略化された紋切り型で、どこか風呂屋のペンキ絵と通底するものがある。また、大半は江戸名物として大量生産されていた匿名の土産品であり、芸術的には価値のないものと考えられてきた。でもそうやって忘れられていくうちに外国人の目利きが買い集め、逆輸入のかたちで再発見・再評価される例は、浮世絵をはじめ枚挙にいとまがない。泥絵もどうやら同じ道を歩んでいるらしい。そもそも当時、こうした都市景観図を買い求めたのは、江戸から帰郷する地方出身者たちで、品川宿の手前の芝明神前に店が並んでいたという。そのため「芝絵」とも呼ばれるそうだ。ちなみに、泥絵の作者で珍しく名前が残っている司馬口雲坡は、地名の芝と画工の司馬江漢にあやかったネーミングだとか。泥絵も奥が深い。

入り口付近に1点だけ、昭和初期の泥絵があった。東京帝大を出て富士山の雲の研究を続けた阿部正直による「富士山宝永の噴火」の図。宝永の噴火は1707年のことだから、阿部の時代より200年以上も前の話。想像力だけで描いた絵特有の奇想にあふれている。これはレアもの。

2020/08/28(金)(村田真)

ヨコハマトリエンナーレ2020 AFTERGLOW—光の破片をつかまえる

会期:2020/07/17~2020/10/11

横浜美術館[神奈川県]

すでに2回も行ったのに、横浜美術館の向かって左側にあった旧レストランでやってる展示を見逃していたので、それだけ見に行った。ジャン・シュウ・ジャンの《動物物語シリーズ》。これはおもしろい。ここだけならタダで見られるし、空いてるし。みんな見逃しているんじゃないか? もったいない。

作品はパペット・アニメと、それに使ったパペットやジオラマの展示。ジャングルに囲まれた川か湖にワニ、ブタ、カニが浮かび、その上でガムランの演奏に合わせてキツネやネズミが踊るというもの。ちょっと因幡の白ウサギを思い出してしまったが、オチはない。おそらくアジア各地に似たような伝説があるのだろう。パペットはよくできているし、ガムランのノリも抜群にいい。作者はインドネシア人かと思ったら、台湾人。アニメはループ再生されていて、繰り返し見ても見飽きない。入場無料なので、横浜美術館やプロット48はパスしてもいいから、ここだけはぜひ。

2020/08/29(土)(村田真)

竹之内祐幸「距離と深さ」

会期:2020/08/26~2020/10/10

PGI[東京都]

竹之内祐幸が展覧会のリーフレットに、本作「距離と深さ」の撮影の動機についてこんなコメントを寄せていた。彼は「友人に、離れ離れになってしまう恋人の写真」を撮ってアルバムにしてほしいと頼まれた。「一緒にいた時間を忘れないように」という依頼を受けて、「自分だったらどんなアルバムを作るだろう」と考える。その答えは「いろんな場所で撮った小石や動物や風景が、まるでひとつの世界に感じられるようなアルバムを作れたら」ということだった。

本展に出品された写真を見ていると、竹之内がまさにそんな「アルバム」を丁寧に編み上げようとしているのがわかる。展示されている写真は、風景、人物、ヤモリや昆虫や小鳥、身近なモノたちなどさまざまだが、そこにある親密な空気感は共通している。被写体と写真家の間にはいうまでもなく「距離」があるのだが、それには物理的な「距離」と心理的な「距離」の2種類があり、いうまでもなく竹之内は後者を基準にしてシャッターを切っている。その「距離」を測る物差しの精度はとても高く、彼の柔らかだが精密な観察力がうまく活かされていると感じた。

ただ、「鴉」(2015)、「The Fourth Wall/第四の壁」(2017)と、PGIで開催された彼の個展を観てきて、いい写真作家なのだが、どこか決め手に欠けるような気がしている。主題、スタイル、どちらでもいいので、もう少し「何か」に集中した作品を見てみたい。彼の作品から、「なぜ撮るのか」という動機がうまく伝わってこないもどかしさがあるのだ。

2020/08/29(土)(飯沢耕太郎)

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