artscapeレビュー

小西拓良「笹舟」

2020年10月01日号

会期:2020/09/11~2020/09/24

富士フイルムフォトサロン東京 スペース3[東京都]

現代日本写真におけるスナップ写真の可能性を探るという意図のもとに、有元伸也、ERIC、大西正、大西みつぐ、オカダキサラ、尾仲浩二、中野正貴、中藤毅彦、ハービー・山口、原美樹子、元田敬三の11名が参加した企画展「平成・東京・スナップLOVE」(FUJI FILM SQUARE、2019年6月~7月)は、なかなか面白い展覧会だった。その関連企画として、各写真家によるポートフォリオレビューも開催され、ファイナリストに選出された写真家たちの個展が、1年後に富士フイルムフォトサロン東京 スペース3で開催されることになった。小西拓良の「笹舟」(中藤毅彦選)も、その「ポートフォリオレビュー/ファイナル・セレクション展」の枠で開催されている。

小西の前には、山端拓哉のちょっと脱力感があるロシア紀行「ロシア語日記」(尾仲浩二選、8月28日~9月10日)が展示されていた。山端の作品もなかなか味わい深かったが、小西も独自の写真観を持ついい写真家である。奥さんとの日常を、モノクローム写真で淡々と綴った作品だが、33点の写真の選択、配置が実に的確で、観客を安らぎと不安とが交錯する世界へと引き込んでいく。何といっても、痩身だが強い存在感を放つ奥さんに被写体としての魅力がある。だがそれだけでなく、セミの遺骸、フライパンの目玉焼き、カーテンの隙間から覗く外の風景など、些細だが印象深い光景をしっかりと拾っている。さらに続けていけば、よりふくらみと深さを持つシリーズに成長していくのではないだろうか。

この「ポートフォリオレビュー/ファイナル・セレクション展」の企画では、東京で展示された山端と小西のほかに、富士フイルムフォトサロン大阪で、阪東美音「メロウ」(元田敬三選、10月2日~15日)、前川朋子「涯ての灯火」(大西みつぐ選、同)が開催される。だが残念なことに、東京での展示は大阪で、大阪の展示は東京では見ることができない。この企画が今後も続くなら、ぜひ東京と大阪の両方での展示を実現してほしい。

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2020/09/16(水)(飯沢耕太郎)

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