artscapeレビュー

Unknown Image Series no.8 #2 鈴木のぞみ「Light of Other Days―土星の環」

2020年10月01日号

会期:2020/07/31~2020/08/21

void+[東京都]

アンティークな鼻眼鏡のレンズに文字がプリントされている。文字は英文で、ベルファスト出身のSF作家ボブ・ショウが、短編『Light of Other Days』の中で引用したアイルランドの詩人トーマス・ムーアの詩の一節だという。同じく骨董市で入手した虫眼鏡のレンズにプリントされているのは、シェイクスピアの『冬物語』のミニアチュール本から撮ったもの。年代物の眼鏡に文字が映るといえば米田知子を思い出すが、鈴木は印画紙にではなく実物の眼鏡のレンズ面に直接プリントする。イメージではなく物質だから、フェティシズムをくすぐるのだ。

ほかにも、アイリッシュ海を渡るフェリーから見えたであろう水平線を焼き付けた丸い舷窓、1851年のロンドン博の会場となったクリスタルパレスをプリントした眼鏡、子供が太陽光を集めて焼くのとは逆に、レンズに太陽を焼き付けた虫眼鏡など。眼鏡にしろカメラにしろ望遠鏡にしろ、レンズで光を調節することで鮮明なイメージが得られる。そのイメージをレンズ表面に凍結する試みともいえるかもしれない。ちなみに、今回の素材とモチーフは、ベルファストとロンドンに滞在していたときに得たものだそうだ。イギリスには文明・文化の掘り出し物がたくさんあるからね。

それにしても昔の眼鏡は小さい。とりわけ鼻眼鏡は日本人にとっても小さく感じるが、鼻の高い西洋人にはうまくはまったのかもしれない。あるいは鼻を挟むだけでなく、眼窩に食い込ませるようにかけていたのではないか。いずれにせよレンズがいまより眼球に近く、まさに身体の延長物だったことを思わせる。だとすれば、鈴木の次の展開は、眼球内の水晶体か網膜そのものに画像を焼きつけることだろう。窓、鏡、眼鏡と徐々に身体に近づいてきた素材がとうとう体内に入り込む。って、そこまでいくとホラーでしょ。

2020/08/21(金)(村田真)

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