2020年11月15日号
次回12月1日更新予定

artscapeレビュー

ロロ『心置きなく屋上で』

2020年10月01日号

会期:2020/09/09~2020/09/13

KAAT 神奈川芸術劇場 大スタジオ[神奈川県]

高校演劇のフォーマットを用いた連作「いつ高」シリーズの新作が約2年ぶりに上演された。2015年に『いつだって窓際であたしたち』で幕を開けたこのシリーズは当初から全10作となることが予告されており、8作目となる今作の当日パンフレットには「いつ高FINALシーズン開始です」という作・演出の三浦直之の言葉もある。

舞台は新校舎の屋上。屋上の床面に描かれた円を描きかけの魔法陣だと言い張る茉莉(多賀麻美)。瑠璃色(森本華)に手伝わせて魔法陣を描いていると友人・海荷(田中美希恵)の元カレである太郎(篠崎大悟)が来合わせる。気まずい3人。太郎と入れ違うようにして現われた海荷の妹・ビーチ(端田新菜)は偽物のラブレターを使って姉と太郎のよりを戻そうと画策しているらしい。やがて完成した魔法陣に瑠璃色が「望む」となんと魔法が本当に発動してしまう。宙に浮かびどこかへ飛び去る瑠璃色。追いかける茉莉とビーチ。無人になった屋上にやってきた海荷が魔法陣をなぞると再び魔法が発動。海荷の「望み」に呼応してか彼女のことを好きだと言う太郎が出現し──。

[撮影:三上ナツコ]

出現した太郎が自らの願望の産物であることに気づいた海荷は「あたしの願望が、あなたに好きって言わせて、それをあたし振ってんのか……きも」と独りごちる。一方、ビーチが書いた太郎からのラブレターを偽物だと見破った海荷は太郎はそんな文章は書かないと言うが、当の太郎は「おれ、この手紙、書いた気がするよ」と言い出す。自分の理想を他人に押しつけること。他人のすべてを知ったり想像したりすることはできないこと。それでも、他人の書いた言葉が自分の言葉のように響く瞬間が確かにあり得ること。太郎も海荷に未練があるようだが、海荷はよりを戻すことを選ばない。「あんまり物事二択で考えないほうがいいとおもう」とは茉莉の言葉だが、好きか嫌いかの二択では割り切れないこともある。

一方、瑠璃色は瑠璃色で進路の選択で悩んでいるようだ。どうやら三者面談で親と揉めて泣いていたらしい。空に浮かび上がってしまった瑠璃色が願ったのは、自由になりたい、あるいは、望むところへ行きたいという願いだろうか。「線のまだ安定しきっていない感じが好き」な瑠璃色は「いまもし自分が漫画だったら何巻くらいの絵なんだろう」「まだ1巻であってほしい」と言う。

[撮影:三上ナツコ]

[撮影:三上ナツコ]

[撮影:三上ナツコ]

渦中にいる彼女たちにはそう思えないかもしれないが、未来は可能性に開かれている。進路にせよ恋愛にせよ、あるいはほかの何かにせよ、彼女たちは日々選択をし、ときにそれが選択だと気づかないまま選択をしている。屋上の床面に書かれた円は○×クイズの○で、旧校舎の屋上には×が記されていた。彼女たちが気づかぬうちに○を選んでいたように、気づかないうちに選んだ道が「正解」だということもある。あるいは、正解だと思って選んだ選択肢が後から間違っていたと思えることもあるだろう。○×クイズの○は正解を意味せず、×も間違いを意味しない。いずれにせよ、自らの選択が「正解」かどうかがわかるのはまだ先のことだ。いや、人生にやり直しがきかず、複数の選択肢を比較することが叶わない以上、本当の意味で「正解」を判定することは不可能だろう。

すでに高校生でない私は、彼女たちの選択の本当の結果はずっと先にならなければわからないことを「知って」いる。高校生のときの切実さも、振り返ればひとつの思い出となる。だが、日々選択し続けているという意味では、高校生の私もいまの私も変わらないはずだ。切実な願いは選んだ選択肢を(それが「正解」であれ「不正解」であれ)思い描く未来につなげる力を持つだろう。それこそが本当の魔法だ。いまの私に、魔法を使えるほどの切実さはあるだろうか。

[撮影:三上ナツコ]


公式サイト:http://loloweb.jp/

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