artscapeレビュー

TOPコレクション 琉球弧の写真

2020年11月01日号

会期:2020/09/29~2020/11/23

東京都写真美術館3階展示室[東京都]

沖縄本島とその周辺の島々、すなわち琉球弧は日本の写真表現の場としてかなり特異な位置を占めている。琉球王国と日本との複雑で多くの問題を孕んだ関係、第二次世界大戦で島全体が戦場になり、戦後はアメリカの軍政下にあったという歴史・社会状況が、そこに大きな影を落としていることはいうまでもない。それに加えて、1969~73年に東松照明が沖縄を何度か訪れ、長期滞在したことによって、彼を受け入れるにせよ反発するにせよ、ウチナーンチュ(沖縄人)の写真家たちが大きな影響を受けたことも、見過ごすことのできないファクターといえる。今回、東京都写真美術館で開催された「TOPコレクション 琉球弧の写真」展には、戦後の沖縄写真の中心的な担い手たちである山田實(1918-2017)、比嘉康雄(1938-2000)、平良孝七(1939-1994)、伊志嶺隆(1945-1993)、平敷兼七(1948-2009)、比嘉豊光(1950-)、石川真生(1953-)の7名の作品、206点が展示されていた。

カメラ店を営みながら、戦後の沖縄の日常にカメラを向けていった山田實、写真集『生まれ島・沖縄』(東京写真専門学院、1972)で、復帰に向けて揺れ動く沖縄の現実を捉えた比嘉康雄、離島の厳しい現実に向き合った写真集『パイヌカジ』(1976)で第2回木村伊兵衛写真賞を受賞した平良孝七、6×6判のフォーマットで光と影にたゆたう南島の光景を捉えた伊志嶺隆、視線を低く保ち、人々の生に寄り添う写真を撮り続けた平敷兼七、ノーファインダーの手法によって、1970年代初頭の沖縄の現実を掴みとろうとした比嘉豊光、自らホステスとして黒人専用のバーで働きながら、沖縄の女たちを活写していった石川真生──それぞれ個性的ではあるが、ウチナーンチュとしての出自を共有する7人の写真家たちの仕事を一堂に会した展示は、とても見応えがあった。東京都写真美術館が、長い時間をかけて沖縄の写真家たちのコレクションを育てあげていった成果が、ようやく形になったといえる。ただ「沖縄写真」の持つ特有のトポスを総体的に捉え直すには、東松照明をはじめとする「本土」から来た写真家たちの仕事と並置することも不可欠になる。今後の課題となるのではないだろうか。

2020/09/29(火)(飯沢耕太郎)

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