artscapeレビュー
甲斐啓二郎「綺羅の晴れ着」
2020年11月01日号
会期:2020/10/13~2020/10/25
甲斐啓二郎は今年の3月に写真集『骨の髄』(新宿書房)を出版し、8月~9月には銀座ニコンサロンで同名の展覧会を開催した。ここ数年ずっと続けてきた、世界各地の祭事を取材してスポーツや格闘技の起源を探るという作業に、ひとつの区切りがついたということだ。大きな仕事が終わった後、「次」が見つかるまでに時間がかかるというのはありがちなことだが、甲斐がTOTEM POLE PHOTO GALLERYで開催した個展「綺羅の晴れ着」では、早くも新たな方向性が示されていた。
今回、甲斐が撮影したのは岡山・西大寺の「会陽」、三重・津市の「ざるやぶり神事」、岩手・奥州市の「蘇民祭」である。いずれも「はだか祭り」とも称され、褌ひとつの裸体の男性たちの集団が激しく体をぶつけ合うことで知られている。祭事の意味が伝わるような場面を注意深く避け、参加者の表情や身ぶりをきめ細やかに追う撮影のスタイルは、『骨の髄』とも共通しているが、見た目の印象はかなり違う。それは「はだか祭り」であるがゆえの、男たちの「汗や体臭を放出する、ぬるっとした肌」の感触が、より強調されているからだろう。彼らの姿は性的なエクスタシーと紙一重であるように見える。そのことで、祭事全般に潜んでいたエロス的な要素が、全面的に開示されることになった。
甲斐が今回発見した、「はだか祭り」の空間に備わった集団的なエロスの強烈な喚起力が、これから先どんなふうに展開していくのかはまだわからない。だが、その方向を突きつめていけば、新たな領域が見えてくるのではないかという予感がある。
2020/10/21(水)(飯沢耕太郎)