artscapeレビュー
ゼラチンシルバーセッション参加作家によるファインプリント展
2020年11月01日号
会期:2020/09/29~2020/11/01
JCIIフォトサロン[東京都]
写真家たちの使用機材が急速にデジタル化し始めてから20年あまりになる。フィルムや暗室作業にこだわりを持つ写真家にとっては、厳しい状況が続いてきたわけだが、その中でアナログ銀塩写真の可能性を広く伝えていきたいという動きも出てきた。2006年にスタートした「ゼラチンシルバーセッション」もそのひとつで、ほぼ毎年展覧会を開催し、カタログを刊行してきた。今回は、その中心メンバーとして活動してきた小林紀晴、嶋田篤人、瀧本幹也、百々俊二、中藤毅彦、西野壮平、広川泰士、村越としや、若木信吾の9名が作品を展示している。風景、スナップ、広告など、写真のジャンルはさまざまだが、長年鍛え上げてきた珠玉のプリントワークを見ることができた。
今回、たまたま全員がそうだったということもあるが、やはりアナログ銀塩写真の白眉といえるのはモノクローム(白黒写真)ではないだろうか。ただ、デジタルプリンターの精度が上がってきたこともあり、細部の描写や階調表現におけるアナログ銀塩写真の優位性を主張するのはむずかしくなってきている。むしろ、なぜアナログのモノクロームなのかという意味を、もう一度問い直すべき時期にきているといえるのではないだろうか。
今回の展示でいえば、西野壮平のカリグラフィを意識した水面の描写(「study of anchorage」)、村越としやの暗鬱な空気感の表現(「FUKUSHIMA」、「月に口笛」)、瀧本幹也の太陽光を「ミクロとマクロの狭間」で捉えようとする試み(「Between」)などに、モノクローム表現のさらなる可能性を追求しようとする意欲を感じた。「ゼラチンシルバーセッション」の活動も、新たな段階に達しつつあるように思える。
2020/10/01(木)(飯沢耕太郎)