2021年01月15日号
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artscapeレビュー

内藤コレクション展III「写本彩飾の精華 天に捧ぐ歌、神の理」

2020年11月01日号

会期:2020/09/08~2020/10/18

国立西洋美術館[東京都]

医学者の内藤裕史氏が国立西洋美術館に寄贈した彩飾写本を公開するもの。3回目となる今回は、音符や歌詞の書かれた聖歌集や、信仰や生活などの法文を所収した教会法令集を中心とする展示。これまで2回は聖書や祈祷書が多かったが、聖歌集はおそらく教会で複数の歌い手が参照したため大判のリーフが多い。リーフとは紙葉のことで、中世の写本は1冊丸ごとだととても高価になるため、ページをばらしてリーフで売買されることが多いのだ。また、本のかたちで展示すると各ページを見られないが、リーフなら1枚ごとに絵として鑑賞できる利点もある。って前にも書いたっけ?

聖歌集や法令集の見どころは、装飾頭文字や余白に施された美しい彩色のほか、現在とは少し違う音符や、欄外にびっしり書かれた注釈だ。五線譜はまだ4本しかなく、オタマジャクシは四角くてしっぽがないため、リズミックな抽象画にも見える。また、欄外に書かれた注釈を見ると、本は生きていたことを実感する。なにが書かれているのかわからないけれど、このような注釈の入った写本が原本となり、注釈を採り入れて新たな写本が生まれる可能性があるからだ。こうして本は少しずつ変化を加えながら生きながらえ、着々と進化してきたことを思うと、グーテンベルク以降の印刷本がいささか頼りなく思えてくる。

「なお、本展の出品作の中には、長沼昭夫氏より西洋美術振興財団へご寄付いただいた基金で購入したリーフも含まれます」とチラシにある。要するにコレクションを美術館へ寄贈することを前提に、長沼氏が内藤氏の購入活動に資金援助をしたというのだ。これはいい話だなあ。ぼくも他人の金で作品を買ってみたい。ちなみに、長沼氏の基金で購入したリーフは心なしか大きめで、色彩も鮮やかなものが多いように見受けられたのは、貧乏人のひがみだろうか。

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2020/09/26(土)(村田真)

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