artscapeレビュー
オノデラユキ「FROM Where」「TO Where」
2020年11月01日号
オノデラユキが1991年に第一回キヤノン写真新世紀で優秀賞(南條史生選)を受賞し、93年に渡仏してから30年近くになる。その間、パリを拠点としながら旺盛な創作活動を展開してきた。今回、東京・銀座のザ・ギンザスペースと同・新宿のYumiko Chiba Associatesで開催されたのは、彼女の過去と現在の作品世界をそれぞれ開示する個展である。
ザ・ギンザスペースでは、オノデラの初期の代表作「camera」3点と「古着のポートレート」15点が展示された。両シリーズとも、身近な事物に目を向けつつ、それらを写真という媒体を通過させることで異なった次元に移行させるオノデラの作風がよくあらわれている。特にクリスチャン・ボルタンスキーがインスタレーション作品に使用した「古着」を、不在の肉体を表象するように空中に浮かべた「古着のポートレート」のイメージ喚起力の強さは特筆すべきものがある。
Yumiko Chiba Associatesには「Darkside of the Moon」、「Muybridge’s Twist」の両シリーズを中心に新作が出品されていた。モノクロームで撮影されたスナップ写真をコラージュしたプリントをキャンバス地に貼り付け、絵具のドリッピングなどを加えて、130×390センチ(三連作のフルサイズ)の大作に仕上げている。ほかに展示されていた「Study for “Image à la sauvette」のタイトル中の「“Image à la sauvette”」(すり抜けていくイメージ)というのは、アンリ・カルティエ=ブレッソンの写真集『決定的瞬間(The Decisive Moment)』(1952)のフランス語版の題名であり、伝統的なスナップ写真の美学を換骨奪胎して、新たな画面構築の原理を探求しようという意図がうかがえる。オノデラが現在進行形の写真作家であることを、鮮やかに主張していた。なお、同時期にZEIT-FOTO kunitachiでも、オノデラの初期作品を中心とした“Everywhere Photographs”展が開催された(9月18日~10月24日)。
[© Yuki Onodera, Courtesy of Yumiko Chiba Associates]
「FROM Where」
会期:2020/09/08~2020/11/29
会場: ザ・ギンザスペース
「TO Where」
会期:2020/09/08~2020/10/10
会場:Yumiko Chiba Associates (viewing room shinjuku)
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