artscapeレビュー
田川基成「見果てぬ海」
2020年12月15日号
会期:2020/11/17~2020/11/30
ニコンプラザ東京 THE GALLERY[東京都]
田川基成は1985年、長崎県生まれ。北海道大学農学部卒業後、編集者を経て写真家として活動し始め、2017年に銀座ニコンサロンで開催した個展「ジャシム一家」で第20回三木淳賞を受賞した。「ジャシム一家」は、千葉県在住のイスラム教徒の移民一家の生活を丹念に追ったドキュメンタリーである。この作品に限らず、田川にとっては、移動と土地の記憶、信仰などが大きなテーマとなってきた。
「三木淳賞受賞新作写真展」として開催された今回の「見果てぬ海」でも、それらのテーマへの関心が貫かれている。故郷である長崎県松島とその周辺の島々の風土と人々の暮らしを撮影しようと思ったきっかけは、2014年に日系人社会の取材のため4カ月ほどブラジルに滞在したことだった。長崎でもよく見かけた木造や簡素なコンクリート造りの教会が、ブラジルにも点在しているのを目にして「それまで意識したことのなかった二つの土地が、私の中で線となってつながった」のだという。
それから5年余りかけて、松島だけでなく、五島列島、平戸島、島原半島など長崎県各地を訪れて撮影を続けた。あらかじめ綿密な日程を組んで取材するのではなく、移動する旅人の視線を基調として、かつてはキリスト教が浸透していた海辺の土地の風景と出来事をカメラにおさめていく。そのことで、明るい光に満たされた土地で、海を交通路として暮らしてきた人々のネットワークがゆるやかに浮かび上がってきた。押しつけがましさのない、気持ちよくその中に入り込むことができるドキュメンタリーの仕事である。展覧会にあわせて、赤々舎から同名の写真集が刊行されたが、こちらも掲載されている写真と、丁寧で行き届いた解説がうまく呼応していて、とてもいい出来栄えだった。なお、本展は2021年1月21日~27日にニコンプラザ大阪に巡回する。
2020/11/18(水)(飯沢耕太郎)