artscapeレビュー
池内晶子「atomized / inside out」
2020年12月15日号
会期:2020/11/19~2020/12/06
gallery 21yo-j[東京都]
ドアを開けると、展示室の前にロープが張ってあってすぐには入れず、作品も見えない。まずスタッフの注意を聞く。中央付近に作品があるので、気をつけて、周囲から見てくださいと。入場を許されて近づいていくと、クモの糸のようなものが見えてくる。壁が白いので見えにくいったらありゃしないが、よく見ると、何本かの絹糸を上から吊るし、下のほうにいくにつれ束ねるように収束させているのがわかる。竜巻型というか、双曲面の上半分というか、急峻にした富士山を逆さにしたような末広がりの逆三角形だ。この形態は池内が制御してバランスを保っているものの、人工的な造形というより、自然の織りなす形であり、重力の生み出す美といえる。
近年、空間全体に糸を張り巡らせたり、上から糸でなにかを吊ったりするインスタレーションが多い。それはものを宙に浮かせる1つの方法であり、また、少ない量で空間全体を埋めるための方便でもあるだろう。しかしそこでは糸は脇役か、さもなければ必要悪として用いられる。言葉は悪いが「上げ底」の発想であり、一種のトリックにほかならない。ところが池内は、あくまで糸を主役として使い、糸の属性に従う。作者が語るのではなく、糸に語らせているのだ。
2020/11/28(土)(村田真)