artscapeレビュー
静岡の建築群をまわる
2020年12月15日号
[静岡県]
《江川家住宅》の近郊、もしくは途中で、ほかにいくつか見るべき建築が存在している。《韮山文化センター(韮山時代劇場)》は、1997年の作品であることから、かつての過剰なまでの装飾性は薄くなったが、様々な屋根が連なる集落のような空間構成をもち、やはり象設計集団らしい建築だった。また村野藤吾による《三養荘》(1988)は、新館のエントランス、ラウンジ、円形の売店をのぞいたが、とても、ていねいに使われている。論理ではかたちの説明がつかない、お金をかけた品のよいデザインだ。インバウンドを見込んで、豪華なホテルは増えていたが、いまの日本では失われた贅沢な空間である。是非、今度は泊まって、庭園も散策してみたい。
清家清による《三津シーパラダイス》(1977)は、もう40年以上前の建築だが、一部改修されただけで、かなり原形を保っていることに驚かされた。十分な資本がなかったのが、建て替えられなかった原因なのかもしれないが、ともあれ、おかげでわれわれは清家の空間を堪能できる。長いスロープ(帰路で気づくが、実は二重螺旋)からアクセスし、空中を飛ぶ鉄骨造のブリッジが、イルカショーなどを行なう2つの屋外スタジアムを分ける。そして細長い水族館のエリアは、うねるコンクリートの屋根がのる。自然養育場など、海とつながる開放感にあふれた建築だった。
帰りには、前々から気になっていた《三島スカイウォーク》(2015)を体験した。これは歩行者専用の吊り橋であり、向こうに渡る交通のための橋ではない。ただ行って帰るだけの橋である。すなわち、観光施設だ。実際、公共事業ではなく、100%民間資本で実現したことが、グッドデザイン賞でも高く評価されている。長さは400mだが、揺れも少ないので、実際に歩くと、むしろ安定感がある。また外から見ると、もっと高いところを歩くように感じるが、渡ってみると、そこまでの高さではない。あいにく訪問時は、天気がすぐれず(雨でも傘をさすことはできないので、ビニールのレインコートを渡される)、ウリにしていた富士山や駿河湾の眺望は得られないタイミングだったが、それでもかなりの来場者がいたので、観光目的の橋としては成功しているように思われた。
2020/11/02(月)(五十嵐太郎)