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artscapeレビュー

生命の庭―8人の現代作家が見つけた小宇宙

2020年12月15日号

会期:2020/10/17~2021/01/12

東京都庭園美術館[東京都]

「緑豊かな自然に囲まれた旧朝香宮邸を舞台に、日本を代表する8人の現代作家たちの作品を通して、人間と自然との関係性を問い直す試み」だそうだ。出品作家は、青木美歌、淺井裕介、加藤泉、康夏奈、小林正人、佐々木愛、志村信裕、山口啓介の8人。ありがちなタイトル、誰もが考えそうなテーマ、意外性のない顔ぶれだが、思ったより退屈しなかったのは、旧朝香宮邸の展示空間に負うところが大きい。もちろんインテリアがすばらしいとか、現代美術とのコラボレーションが斬新だとかではなく、ドントタッチな空間とアーティストの攻防が見ものだったのだ。

例えば、現場制作のウォール・ドローイングが持ち味の淺井裕介は、ここでは泥絵具を壁に塗りたくることなどもってのほかなので、あらかじめつくった作品を持ち込むという、らしくない展示に甘んじるしかなかった。しかも作品が直接壁や床に触れないように注意が払われている。つまり「浮いている」。木枠を組む、キャンバスを張る、絵具を塗るという行為を同時進行する小林正人も、まさかこの場所で絵具と格闘するわけにはいかず、一見できそこないみたいな完成作を壁や床に接しないように養生しつつ展示していた。きっと、室内を汚したり傷つけたりするなとうるさく言われたんだろうなあ。なにしろ重要文化財の建物だからね。でも2階奥の部屋のひしゃげたキャンバス作品は、インスタレーションとして秀逸だった。

美術館みたいに展示できないのなら、美術館にはない空間を探して展示しちゃえ、というのが加藤泉だ。まず、玄関前の狛犬みたいな一対の彫刻の横にちゃっかり石像を設置。エントランスホール脇の待合室や、物置みたいな空間にも作品を置いている。へーこんなとこにも部屋があったのかと感心した。これじゃアートを見にきたのか、家捜しにきたのかわからない。しかもたくさんの部屋を開放したため、監視員がやたら多かった。なんか見張られているようで居心地はよくない。

そんななか、いちばん感銘を受けたのが志村信裕の映像だ。メンデルスゾーンの楽譜の上に木漏れ日を映したり、円天井にリボンの舞う映像を流したり。なるほど映像なら壁も床も汚さずにイメージを映し出せるわけだ。なかでも傑作だったのが、バスルームの磨りガラスに投影した花火の映像。直径10センチくらいのボケた映像で、最初なんだかわからなかったが、花が開くような様子を見ていて打ち上げ花火と気がついた。手のひらサイズのプチ花火、これはいい。ちなみに、思いきり大作を発表する人が多かった新館の展示は蛇足でしょう。

2020/11/27(金)(村田真)

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