2024年03月01日号
次回3月18日更新予定

artscapeレビュー

ザ・タワー・ホテル名古屋

2020年12月15日号

[愛知県]

10月にオープンしたばかりの《ザ・タワー・ホテル名古屋》を見学した。日建設計がリノベーションを担当し、エレベーター棟を脇に増築しつつ、《名古屋テレビ塔》(1954)の4階を13室・ギャラリー・レストラン、5階を屋外のバルコニーをもつスイートルーム2室に改造したものである。ベッドの脇を斜めの鉄骨が大胆に貫通し、室内にいても、ここがテレビ塔だったことがわかるデザインだ。もともと《名古屋テレビ塔》はそれほど高くはないが、久屋大通公園のど真ん中にたち、立地がよいので、見通しもよい。また杉戸洋や森北伸など、地域ゆかりの現代アートの作品が室内やフロントに飾られ、ギャラリーでは愛知県美術館の副館長、拝戸雅彦がキュレーションを担当した展示「smokes in the clouds」を楽しめる。


《ザ・タワー・ホテル名古屋》のロビー。アート作品が飾られ、斜めの鉄骨が貫通している



《ザ・タワー・ホテル名古屋》のゲストルーム。ここにも鉄骨が見える



《ザ・タワー・ホテル名古屋》関連グッズ



ギャラリーで開催されていたグループ展「smokes in the clouds」展示風景


《名古屋テレビ塔》は、電波塔の役割を終えた後、一時は解体される恐れもあったが、かくしてアートホテルとして見事に再生した。現在、コロナ禍によりインバウンドの客はいないが、名古屋のシンボル的な構築物ゆえに、泊まりたがっている地元客で賑わっているという。

このプロジェクトで思い出されるのが、あいちトリエンナーレ2010に参加した西野逹の実現されなかったアイデアである。彼は、マーライオンや駅舎の時計塔など、街でもっとも有名な場所をホテル化することで知られているが、当時、最初は名古屋城の金鯱のホテル化を提案し、それが難しいと判明すると、テレビ塔のホテル化を考えていたらしい。結局、これは実現しなかったが、それから10年後、状況が変わって、テレビ塔が本当にホテルになったという意味では、アートがテレビ塔の未来を予言したと言える。

一方、タワーの足元の久屋大通公園では、店舗群が入る《レイヤードヒサヤオオドオリパーク》が9月に誕生した。確かに人は集まっているのだが、安普請のアウトレットパークのような商業施設を都心の最重要地点につくるのは、なんとも残念である。かつて東京タワーに先駆けて、名古屋にテレビ塔を建設したときの気合いから比べると、なんとも志が低い。それが今の日本らしさかもしれないが、どうせつくるなら、テレビ塔と張り合えるような建築をめざしてほしかった。


久屋大通公園にオープンした《レイヤード ヒサヤオオドオリパーク》



左に付加された構築物は、ホテルとレストランへの専用入口となるエレベータ棟



上から見下ろした《レイヤード ヒサヤオオドオリパーク》


2020/11/15(日)(五十嵐太郎)

2020年12月15日号の
artscapeレビュー

文字の大きさ