artscapeレビュー

今井壽恵の世界:第二期「生命(いのち)の輝き–名馬を追って」

2021年02月01日号

会期:2021/01/07~2021/01/31

コミュニケーションギャラリーふげん社[東京都]

連続写真展「今井壽惠の世界」の第二期として、コミュニケーションギャラリーふげん社で開催された「生命(いのち)の輝き–名馬を追って」展は、第一期の「初期前衛作品『魂の詩1956–1974』」とはまた違った面白さがある好企画だった。第一期では、今井が写真家として認められるきっかけになった、「心象風景」をさまざまな手法で展開した作品が並んでいたが、第二期では1962年に交通事故で重傷を負った以後に撮影し始めた写真群が「名馬の肖像」、「ガラス絵の牧場」の2部構成で展示されている。

馬たちを撮影した写真では、「フォトポエム」と称された初期作品の実験的、前衛的な表現は抑制され、被写体をストレートに撮影したドキュメンタリーとしての要素が強まってきている。とはいえ、ジェネシス、トウカイテイオー、オグリキャップなどを撮影した「名馬の肖像」のパートと比較すると、展示の後半部の「ガラス絵の牧場」のパートの作品には、彼女の写真の表現のあり方がより明確にあらわれているように感じた。そこに登場してくる草原を疾走し、雪の中で戯れ、夕陽にシルエットで浮かび上がる馬たちは、固有名詞化された競走馬ではなく、むしろ生命力そのものの象徴として捉えられている。「たそがれて」(1978)のように、空に馬たちの姿をモンタージュで合成した初期作品に通じる作品もあり、今井自身の「魂」に直接響き合うイメージが見事に形をとっていた。

これまでは今井の「初期前衛作品」と後期の馬たちの写真は、対比的に見られることが多かった。だが、それらを「生命の輝き」、「魂の詩」を体現した作品群として、一体化して捉える視点も必要になるのではないだろうか。

2021/01/08(金)(飯沢耕太郎)

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