artscapeレビュー

PUBLIC DEVICE──彫刻の象徴性と恒久性

2021年02月01日号

会期:2020/12/11~2020/12/25

東京藝術大学大学美術館陳列館、絵画棟大石膏室[東京都]

これはおもしろい。2020年のベスト3に入るかも。公共彫刻をめぐる問題に焦点を当てた展覧会で、企画は小谷元彦と森淳一、共同キュレーターに小田原のどかが入っている。小田原は「展覧会に寄せて」のなかで、出品作家のひとり会田誠の「モニュメントには何らかの罪深さがある」「美術家としてモニュメントを作りたくなる誘惑への自制、自戒」という言葉を引き、「公共彫刻」における「自制、自戒」が本展に通底しているという。出品作家は20組。うち北村西望、本郷新、菊池一雄の3人は戦前・戦後を通じてモニュメントを手掛けてきた「旧世代」だ。北村はモニュメントの親分ともいうべき長崎の《平和祈念像》に関連するデッサン、本郷は旭川にある《風雪の群像》のプランドローイング、菊池はもともと軍人像が鎮座していた台座に3人の女性ヌードを載せた《平和の群像》のマケットなどを展示。菊池の作品は芸大所蔵だが、あとの2人はアウェーなのによく借りてこれたなあ。

戸谷成雄は日本の現代彫刻の転換点ともいうべきデビュー作《POMPEI・・79》など、森淳一は近代日本の問題が凝縮したいわゆる軍艦島をモチーフとする「Hashima Island」、小谷元彦はミケランジェロ作のダヴィデ像を模した高さ5メートルの女子高生モニュメント、青木野枝は未公開だったインスタレーションのマケットや作品解体中の映像、会田は「モニュメント・フォー・ナッシング」シリーズの写真や資料、および同シリーズの一環として兵庫県立美術館で発表した巨大ハリボテ彫刻の一部を展示。ある意味、自虐的ともいえそうな「自制、自戒」に満ちた作品群だ。

会場は絵画棟の大石膏室に続く。いまではほとんど無用の長物と化した大石膏室だが、同展には絶好の舞台だ。まず目に入るのが、騎馬像のあいだに挟まったブヨブヨの生命体みたいな椿昇のバルーン彫刻《Mammalian》。等身大の騎馬像が飲み込まれそうなほどデカイ。井田大介の《欲望の台座》は、彫刻に近くて遠いマネキンの「皮を剥ぐ」ことで近代彫刻を逆照射する。作品配置図にはロダンの《青銅時代》の石膏像も含まれ、(2020修復)と記されている。はてどういうことかとよく見ると、台座の欠けた部分が新しい石膏で補われていることに気づく。これか? その前には、サイドコアが「東京藝術大学」の文字をコピーした石膏の看板を台座に据えている。石膏に支えられてきた日本の美術教育のモニュメント。いや、墓碑か。

2020/12/16(水)(村田真)

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