artscapeレビュー
公文健太郎『光の地形』
2021年02月01日号
発行所:平凡社
発行日:2020/12/16
1981年生まれの公文健太郎は、このところ「農業がつくる日本の風景、土地がつくる人の営み、川がもたらすもの、季節が与えてくれるもの」を通して日本をもう一度見直そうとする、充実した仕事を続けている。平凡社から刊行された新刊の『光の地形』も意欲的な内容の写真集だった。
公文が今回撮影したのは、佐多岬半島、能登半島、島原半島、紀伊半島、薩摩半島、下北半島、男鹿半島、亀田半島という、日本各地の8つの半島の風景、地勢、そこに住む人たちの暮らしである。かつては、海と山をつなぐ海上交通の要として、文字通りの「先端」の地であった半島は、都市化の進行によって「行き止まりの場所」になってしまった。だが逆に半島を見直すことで、現在の日本の経済、文化、社会のあり方をあらためて問いかけることもできるわけで、公文の問題意識は極めて真っ当であり、多くの示唆をふくんでいると思う。
撮影の姿勢も、被写体ときちんと向き合った揺るぎのないものなのだが、写真集の、アンバー系の色味を強調した黒っぽい印刷はどうなのだろうか。公文は2016年のキヤノンギャラリーSでの個展「耕す人」(平凡社から同名の写真集も刊行)の頃から、意図的に暗めの調子のプリントで発表するようになった。観客や読者を写真の世界により集中させるためともいえるし、被写体によってはうまくマッチしている場合もある。だが、すべての写真を同一のトーンに塗り込めてしまうと、今回のように、それぞれの半島の個別性が薄れて均質な見え方になってしまう。視覚的情報を制限してしまうようなプリントの仕方が、うまくいっているとは思えない。個々の写真のあり方に即した、より細やかなトーン・コントロールが必要なのではないだろうか。
2021/01/17(日)(飯沢耕太郎)