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桑久保徹「A Calendar for Painters without Time Sense. 12/12」

2021年02月01日号

会期:2020/12/12~2021/02/07

茅ヶ崎市美術館[神奈川県]

コロナ禍で企画展の自粛や延期が重なったせいか、ようやく年末になって見応えのある展覧会が増えてきた。これもそのひとつ。桑久保が2014年から、12人の画家のスタジオをカレンダー仕立てで描いてきたシリーズが完成、全12点およびLPレコード付きドローイングを公開している(1点は海外にあるため映像を出品)。なぜカレンダーかといえば、日本で西洋名画を身近に親しむメディアがカレンダーだったからではないか。画集のようにわざわざ開く必要がなく、毎日のように眺めるし、月替わりで異なる作品が鑑賞できるのだから。

桑久保が取り上げた画家は、1月のピカソから、ムンク、フェルメール、アンソール、セザンヌ 、ボナール、スーラ、ゴッホ、ホックニー、マグリット、モディリアーニ、そして12月のマティスまで、フェルメールを除いて近現代の巨匠たちばかり。おそらく作者が影響を受けた画家たちなのだろう。おもしろいのは、彼らのスタジオを描くという設定なのに、背景はマティス以外すべてオープンエアの浜辺であること。さらに瞠目すべきは、それぞれの代表作がことごとく描き込まれていることだ。つまり1枚の画面のなかに、巨匠たちの絵が「画中画」として何十点も模写されているのだ。痛快なのは、もともと画中画を描いているフェルメールやホックニーやマティスには「画中画中画」まであること(笑)。細密というほどではないけれど、1点1点どの作品か特定できるくらい忠実に再現されていて、画中画ファン(少数ながらいる)にとっては垂涎のシリーズというほかない。

それだけではない。例えば、1月のピカソは《ゲルニカ》に合わせてか全体がモノクロで描かれ、3月のフェルメールには全作品だけでなくヴァージナルやカメラオブスクーラまで並べられ、5月のセザンヌは遠景にサント=ヴィクトワール山らしき山塊を望み、8月のゴッホは星月夜の見事な夜景で、10月のマグリットは作品の半分以上が空に浮き、12月のマティスは眼下に海岸を見渡せる赤い室内風景になっている、といったように、それぞれの画家のアトリビュートを画面のどこかに忍ばせているのだ。これは何時間でも見ていられるなあ。ところで、タイトルの最後に「12/12」とあるけど、会期が12/12からなのは偶然か?

2020/12/13(日)(村田真)

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