artscapeレビュー
大山エンリコイサム展 夜光雲
2021年02月01日号
会期:2020/12/14~2021/01/23
神奈川県民ホールギャラリー[神奈川県]
最近、立て続けに作品発表と著書の出版を行なっている大山の最大規模の個展。大山は主に、グラフィティ(彼の用語によればエアロゾル・ライティング)特有の勢いあるジグザグの線を抽出した「クイックターン・ストラクチャー(QTS)」を用いて、壁画やペインティングなどを制作している。こうした絵画作品のタイトルはすべて「FFIGURATI」に統一され、作品ごとにナンバーが振られている。
最初の部屋は「レタースケープ」シリーズの2点。長さ6メートルほどの台紙に、漢字やアルファベットなどさまざまな言語で書かれた手紙をツギハギしたもので、片隅に「QTS」モチーフが小さく描かれている。どこか絵巻やパピルス文書を思わせるそれは、グラフィティの起源が文字と絵の融合にあることを証しているようだ。これも「FFIGURATI」の比較的初期の作品。次の部屋には2メートルを越す縦長の画面に、少しずつ異なる「QTS」を書いた「FFIGURATI」の新作9点が並ぶ。もっとも大山らしい作品だろう。逆によくわからないのは、黒い板状のスタイロフォームを斜めに天井まで積み上げた3点の立体。タイトルは「Cross Section/Noctilucent Cloud」で、訳せば「断面/夜光雲」となる。展覧会名にもなっている「夜光雲」は、噴霧状のエアロゾルからの連想だろうか。映像を見ると、黒いスタイロフォームを使っているのではなく、明るい色のスタイロフォームを積み上げて黒いエアロゾルを吹きつけているのがわかる。なにもない宇宙空間を切り取った暗黒の断片のようにも見える。
広大なメインギャラリーには、1点の《無題》と5点の「FFIGURATI」(うち2点は1枚の表裏に描かれている)が宙吊りになったり、壁にかけられたりして、スポットライトが当てられている。これこそ「夜光雲」か? 作品の下の床には塗料の滴りが認められるので、その場で制作し(または仕上げ)たのだろう。最後の部屋は真っ白で作品らしきものは見当たらない。よく見るとスピーカーがあり、エアロゾルの噴出音が流れているだけ……。ほかのアーティストなら笑ってしまうところだが、ここは大山だから納得する。あれこれ出している割にテーマも作品も絞れており、統一感のある展示に仕上がっている。が、裏を返せば、会場の広さに比して作品量が少なく、しかも色彩がないこともあって寂しい印象を受けたのも事実だ。
2020/12/19(土)(村田真)