artscapeレビュー

青春と受験絵画

2021年02月01日号

会期:2020/11/28~2020/12/06

パープルームギャラリー[神奈川県]

ぼくが横浜の黄金町で毎月やってる定例講座で、10月と11月に「日本の美術教育」について連続で取り上げ、荒木慎也の『石膏デッサンの100年』(三重大学出版会、2016)を参考に、石膏デッサンをはじめとする「受験絵画」についても話した。最後に、「こういう受験絵画だけ集めて展覧会をやったらおもしろい」と締めくくったら、本当に開くところがあるというので喜んで見に行った。やはり芸大受験をテーマにした会田誠の『げいさい』や、山口つばさの『ブルーピリオド』などが話題になったことが大きいだろう。

会場のパープルームギャラリーは初めてで、相模原からとぼとぼ歩いて20分ほど。ガラス戸を開けると、壁3面に受験絵画が2段がけ3段がけで飾られている。石膏デッサンはなく、F15号前後の油彩画のみ。計27点のうち19点は新宿美術学院から借りたもので、いずれも合格者の作品だ。1966年から現役高校生のものまで幅広く、川俣正の油絵もある(1974年)。しかし60-80年代は少なく、大半は90年代以降の作品だ。展示は年代順ではなく一見ランダムだが、モチーフや描き方が似たものを近くに並べているようだ。受験絵画の変遷はわかりにくいが、このレベルなら(でも)受かるんだというのはなんとなくわかる。逆に不合格作品も並べたらもっとわかりやすいが、それをやると「落選展」みたいになってしまうか。

ちなみに、ぼくが思い浮かべる受験絵画は濁った色彩のセザンヌ風だが、それはせいぜい80年代までで、90年代から明らかに変わり、シュルレアリスム風から表現主義、コラージュ、抽象となんでもあり状態。なかには受験絵画を超えてレッキとした芸術作品といえそうな絵もある。どうやら80年代に芸大で受験改革が行なわれ、それにつられて予備校も対策を練り、芸大はそんな「対策絵画」から逃れるために毎年課題を変え……というイタチごっこを繰り返してきたらしい。哀れなのはそれに翻弄される受験生だが、それをうまくくぐり抜けてきた人たちがいまの日本の現代美術を支えていると思うと、いささか複雑な気分にもなる。

ありがたいことに、この規模の展覧会では珍しく20数ページのパンフレットを制作している。全出品作品の図版のほか、パープルームを主宰する梅津庸一や受験絵画研究者の荒木慎也によるエッセイを掲載するなど、資料としても貴重だ。最後のページにはしっかり新宿美術学院とパープルーム予備校の広告も載っていた。

2020/12/03(木)(村田真)

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