artscapeレビュー

石内都展 Frida is

2016年08月15日号

会期:2016/06/28~2016/08/21

資生堂ギャラリー[東京都]

石内都の写真は、原爆の被災者の遺品を撮影した「ひろしま」(2008)を契機にして大きく脱皮を遂げる。被写体が人間からモノに移行し、鮮やかなカラー写真で撮影されるようになる。白バックで、衣服(布)がふわふわと宙に漂うような撮り方も特徴的で、人々の記憶が纏わりつく遺品を撮影しているにもかかわらず、軽やかで遊戯的な雰囲気が生じてくる。そのような作品のあり方は、今回の「Frida is」にもそのまま踏襲されている。
このシリーズは、2012年にフリーダ・カーロ美術館の依頼を受けてメキシコ・シティで撮影され、写真集『Frida by Ishiuchi』(RM、2013)が刊行された。その制作過程をドキュメントした『フリーダ・カーロの遺品─石内都、織るように』(監督=小谷忠典)も2015年に公開されている。あらかじめ、どんな作品なのか充分に承知しているつもりで出かけたのだが、会場で実際に展示を見て、とても新鮮な印象を受けることに逆に驚いた。石内の展示のインスタレーションのうまさには定評があるが、今回も大小の作品の配置の仕方が絶妙で、観客を写真の世界に引き込んでいく。写真の色味に合わせるように、壁を黄色、青、赤、藤色に塗り分けたのも素晴らしいアイディアだ。個々の作品がより膨らみを持って見えてくるように感じた。フリーダ・カーロのトレードマークというべき派手な色合いの民族衣装よりも、むしろ薬壜、洗面器、眼鏡、体温計といった小物をいとおしむように撮影した作品のパートに見所が多いのではないだろうか。
展覧会にあわせて写真集『フリーダ 愛と痛み』(岩波書店)とエッセイ集『写真関係』(筑摩書房)が刊行されている。また、同時期に開催されている「BEAUTY CROSSING GINZA」の企画の一環として、資生堂パーラー、資生堂銀座オフィス、SHISEIDO THE GINZAなどでも、石内の「NAKED ROSE」や「1・9・4・7」のシリーズが展示されていた。

2016/07/15(金)(飯沢耕太郎)

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