2021年10月15日号
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artscapeレビュー

ポコラート世界展 偶然と、必然と、

2021年10月01日号

会期:2021/07/16~2021/09/05

アーツ千代田 3331 1階メインギャラリー[東京都]

3331の開館以来、障害者の芸術活動を支援してきたポコラート事業の10周年を記念する展覧会。これまで9回の全国公募を実施し、計11,490点が出展されたが、今回はこの国内公募を含む計22カ国からの50人による約240点が出品されている。ややこしいのは「障害者の芸術活動を支援」といいながら、作品は障害の有無を問わないこと。それだけでなく「美術」という枠組みさえ飛び越えていること。そういうと、ピンからキリまでなんでもありのグチャグチャな展覧会を想像するかもしれないが、見事なまでにアンビリーバボーな作品が揃っている。たまに障害のなさそうな人の作品もあるが、それらはよくできているけれど明らかにインパクトが違うし、比べようがないほど評価基準が異なっている。その意味では確かに「美術」の枠組みを超えている。

作品の半数くらいはこれまでにも「アール・ブリュット展」などで見たことがあるが、何度見ても呆れるほど感心してしまうところが現代美術との大きな違いかもしれない。誤解を恐れずにいえば「ホンモノ」なのだ。例えば、ポーランドのトマシュ・マフチンスキは時代、男女、年齢、職業を問わずさまざまな人物になりきってセルフポートレートを撮る。なんだ森村泰昌と同じじゃんと思われるかもしれないが、森村より20年も早くから撮り始め、すでに2万2千枚に達したという。1日1枚以上のペースだ。イギリスのカルロ・ケシシアンは、幻覚の延長でノートにびっしりと日記を書いている。異常なのはその密度で、A4サイズ1ページに1万字ほど詰め込み、12時間連続で書くこともある。問題はだれにも読めないこと。

中国の郭鳳怡(ゴウ・フォンイ)は大きな紙に霊媒による素描を即興で描いていく。制作中は本人もなにを描いているかわからないが、描いているうちに神が降臨するように、徐々に精霊の姿が立ち現われてくるという。黒田勝利は、他者から見れば解読不能なコマ割り漫画をカラーペンで描く。ユニークなのは、通常とは逆に結末からストーリーを遡っていくこと、そして、人が殺されるような破滅的なシーンも大笑いしながら描くことだ。古久保憲満はロール紙に道路、鉄道、ビル、遊園地、果てはお店の商品やレストランの料理まで細々と都市風景を描き、これまでに400点ほどになった。

ぼくらはいったい彼らの作品のどこに惹かれるのだろう。受けようとか、売ろうとかしない純粋無垢な無償の行為だからか。でもそれはわれわれがそう思っているだけで、見る者の自己満足かもしれない。だれにも真似できない(しようとも思わない)ユニークな表現だからか。確かに無駄としか思えない悶絶的な細密描写、強迫観念的な同じパターンの繰り返し、常人では考えられない色使いなどは驚異的だ。だが興味深いことに、こうしたユニークな表現は彼らが共通して持っている特性で、われわれから見ればユニークであっても、彼らからすれば「これしかできない」限定的な表現だったりするのだ。考えれば考えるほどわからなくなる。そこが魅力なんだな。

2021/08/22(日)(村田真)

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