artscapeレビュー

王露「Frozen are the winds of time」

2021年10月01日号

会期:2021/09/16~2021/10/03

コミュニケーションギャラリーふげん社[東京都]

王露(ワン・ルー)は1989年、中国・山西省出身の写真家。2020年に武蔵野美術大学造形学部映像学科を卒業し、現在は東京藝術大学美術研究科先端芸術表現専攻の修士課程に在学している。今回の個展では、王が12歳の時に交通事故で脳挫傷を負い、精神的、身体的な障害を抱えて暮らしている父親と、その周辺の環境を撮影した写真シリーズ「Frozen are the winds of time(時間の風、そのまま)」を展示した。

8歳程度の知的能力になり、娘の存在をうまく認識できない父親は、王がカメラを向けると手を伸ばして拒否の身振りをとる。展覧会にはその父親と、ともに苦難の日々を過ごしてきた母親のポートレートとともに、母親の日記の抜粋も出品されていた。もう一つ重要なのは、父母が暮らす故郷の街、太原の急速な変化を指し示す写真が挟み込まれていることだ。他の中国の街と同様に、太原も近代化、都市化が加速し、高層アパート群が建ち並ぶようになった。その「時間の風」に吹きさらされているような光景と、父母の住む、時が止まったような部屋の眺めとが、対比的に提示されている。布プリントやスライドショーを含んだ会場構成もうまくいっていた。

残念なことに、コロナ禍で帰国できなくなり、ここ2年余りの写真を組み込むことができなかった。今のところは中間報告の形をとらざるを得ないが、もしこの続きを撮影することができれば、より厚みのあるシリーズとなるはずだ。さらなる展開を期待したい。

2021/09/18(土)(飯沢耕太郎)

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