2021年10月15日号
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artscapeレビュー

青森 1950-1962 工藤正市写真集

2021年10月01日号

発行所:みすず書房

発行日:2021/09/16

工藤正市(1929-2014)は青森市に生まれ、1946年に青森県立青森工業学校機械科を卒業した。その後、東奥日報社に入社し、印刷部を経て写真部に所属する。1950年代になると、工藤は美術展の写真部門やカメラ雑誌の月例写真欄に積極的に応募するようになり、入賞を重ねて、写真家として名前を知られるようになっていった。特に、1952-1954年頃の『カメラ』月例第一部での活躍はめざましく、1953年には、応募作家の年間最優秀賞であるベスト10の第1位を獲得する。ちなみに、この時のベスト10の第3位は川田喜久治、第6位は東松照明だった。

1960年代以降は、新聞社の仕事に専念し、写真作品の応募は封印するようになった。そのため、彼の存在はほとんど忘れ去られたままになっていた。ところが、没後の2018年に、荷物の整理をしていた娘の工藤加奈子が、押入れの奥からネガフィルムが入った大小の段ボール箱を発見し、写真家・工藤正市の仕事にふたたび注目が集まるようになる。スキャンした画像をInstagramに上げたところ、日本だけではなく世界各地から大きな反響があり、2021年6月には東京・馬喰町のKiyoyuki Kuwahara Accounting Galleryで写真展(「portraits 見出された工藤正市」)も開催された。本書はその工藤の残した写真を300ページ以上にまとめた、決定版というべき写真集である。

工藤が土門拳や木村伊兵衛が主導した「リアリズム写真」の運動に強い影響を受けていたことは間違いない。その被写体の選択、眼差しの向け方において、同時期に全国各地に出現してきていた「リアリズム写真」の信奉者たちと、特に違いがあるわけではない。だが、被写体を突き放すのではなく、むしろ同化していくような視点のとり方、写真の舞台となる街や農漁村の空気感を大事にし、それを丸ごと掴みとるような撮影のあり方に、工藤の写真家としての姿勢が明確にあらわれている。「リアリズム写真」の運動そのものは、5年余りでピークを迎え、1950年代後半以降は退潮に向かう。だが、工藤の同期生というべき川田喜久治や東松照明は、「リアリズム写真」をベースとして、次のステップへと歩みを進めていった。1950年代の写真表現の展開の厚みを確認するという意味でも、重要な写真群といえる。

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