2021年10月15日号
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artscapeレビュー

ダニエル・マチャド『幽閉する男』

2021年10月01日号

発行所:冬青社

発行日:2021/07/20

ダニエル・マチャドの「幽閉する男」展(銀座ニコンサロン)を見たのは2009年3月で、それから10年以上が過ぎている。没落したウルグアイ・モンテビデオの名家の、廃墟じみた屋敷に独り住む男の姿を捉えた写真群の、あたかも「ホルヘ・ルイス・ボルヘスやガブリエル・ガルシア=マルケスなど、中南米文学のテーマになりそうな」描写は、とても印象深く、記憶に残るものだった。ウルグアイ出身で、立教大学ラテンアメリカ研究所研究員を務めながら、写真家としても活動するマチャドは、展覧会の後、すぐに写真集を刊行する予定だったが、いろいろな事情でその望みを果たすことができなかった。結果的に、この時期に写真集が出ることになったわけだが、イメージの熟成という意味では、逆によかったのではないかと思う。

2001-2007年に撮影されたこの写真シリーズの主役は、むろん自分で自分を「幽閉」してしまった中年男である。だがそれ以上に、荒廃しつつも奇妙な華やぎを残した屋敷の部屋のたたずまいに魅力がある。古色蒼然とした家具が並び、崩れかけた壁には家族の古い写真が額に入れて飾られ、机の上に積み上げられた本には埃がかぶっている。かと思うと、部屋にはまったくそぐわないポップな人形が飾られていたりして、微妙に歪んだ磁場が生じているのだ。マチャドは撮影当時、ウォーカー・エヴァンズの『アメリカン・フォトグラフス』(1938)に強い影響を受けていたという。たしかに部屋の家具や調度品を、即物的に、あくまでも客観的に捉える視線はエヴァンズと共通している。だが、その眼差しが不吉な死の匂いが浸透した部屋とその住人に注がれると、ラテン・アメリカ特有の「魔術的リアリズム」に転化してしまうのが面白い。閉塞感が漂い、非日常的な状況が日常化しつつあるコロナ禍の現在の空気感にも、通じるものがありそうだ。

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