artscapeレビュー
田凱「取るに足らないくもの力学」
2021年10月01日号
会期:2021/08/19~2021/09/12
コミュニケーションギャラリーふげん社[東京都]
田凱は1984年、中国・河北省生まれの写真家。2014年に日本写真芸術専門学校を卒業し、2018年の第19回写真「1_WALL」でグランプリを受賞した。
その、故郷の石油産業の街を舞台にした叙事詩的な作品「生きてそこにいて」と、今回の「取るに足らないくもの力学」との印象はかなり違っている。以前のような、やや距離を置いて撮影した風景や人物写真は、今回の出品作にはあまりなく、被写体との関係が親密になってきているように感じた。会場構成も、大小の写真27点を撒き散らすように壁にインスタレーションし、より融通無碍なものになっている。直貼りのプリントとフレームに入れた写真を併用しているのも、これまではなかったことだ。日本滞在が長くなってきたことで、日本の写真家たちの「私写真」的な要素を、積極的に取り入れるようになってきたということだろうか。被写体の幅もかなり広く、人物、風景、モノ、植物などが混在している。共通しているのは、「アンバランスのバランス」といえそうな、微かな揺らぎ、微妙な気配を巧みに嗅ぎ当ててシャッターを切っていることで、そのあたりも日本の写真家たちの表現と呼応しているように感じる。
繊細な、いい仕事だとは思うのだが、以前のようなスケールの大きな画面構成が影を潜めているのはちょっと気になる。ことさら「中国人らしさ」を強調する必要はないが、自分の体質は大事にしてほしい。息の長い仕事ができる写真家なので、次は大作を期待したいものだ。
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