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ポーラ美術館開館20周年記念展 ピカソ 青の時代を超えて

2022年11月01日号

会期:2022/09/17~2023/01/15

ポーラ美術館[神奈川県]

ピカソほど多作な画家もいない。油絵と素描だけで1万3500点、そこに版画、挿絵、彫刻、陶器なども加えれば15万点にもなるらしいから、100点を集めた「ピカソ展」が1500も成立することになる。だからいまどき単なる「ピカソ展」をやっても見向きもされないだろう。なにがいいたいかというと、今回の「ピカソ展」はただピカソ作品を集めたのではなく、テーマ性を重視しているということだ。それがサブタイトルの「青の時代を超えて」だ。

同展はポーラ美術館とひろしま美術館の主催で開かれるもの。なぜこの2館かといえば、ポーラは青の時代の《海辺の母子像》(1902)をはじめ27点、ひろしまは同じく青の時代の《酒場の二人の女》(1902)はじめ9点のピカソを所有するからだ。周知のようにピカソは多作なだけでなく、時代ごとに表現スタイルをコロコロと変えたことでも知られているが、その始まりが青の時代。だから青の時代を起点として、そこから長い画業をたどってみようというのが展覧会の狙いだ。ただ時代ごとにスタイルを変えたといっても、何年から何年まではキュビスム様式で、何年から何年までが新古典様式みたいにスタイルが交代していったわけではなく、青の時代に新古典主義時代を特徴づける母子像や海の背景を先取りしたり(たとえば《海辺の母子像》)、逆に、新古典主義時代にキュビスム風の静物画が再臨したり(たとえば《新聞とグラスとタバコの箱》[1921])、スタイルやモチーフがしばしば時代を超えて飛び火しているのがわかる。

もっとおもしろいのは、青の時代には画家が貧乏だったこともあって、いちど描いたキャンバスの上から別の絵を上描きしていたこと、そして近年の科学調査によって、下に描かれた絵がどんな絵柄であったかが明らかになってきたことだ。その代表例が先述の2点で、《海辺の母子像》の下層からは酒場で飲む女性が現われ、《酒場の二人の女》の下層から母子像が見つかったのだ。つまりこの2点は互い違いにモチーフを隠し持っていたということになる。この発見こそ両館が「ピカソ展」を共同企画することになった理由だろう。ちなみに、出品作品81点のうち36点がこの2館のコレクション、23点がそれ以外の国内の美術館の所蔵作品なので、7割強が日本にあることになる。そんなにピカソを持っていたのか。でもピカソ全作品から見れば0.04パーセントにすぎないけどね。


公式サイト:https://www.polamuseum.or.jp/exhibition/20220917c01/

2022/09/17(土)(村田真)

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