artscapeレビュー

入江早耶「東京大悪祭~Happy Akuma Festival~」

2022年11月01日号

会期:2022/09/22~2022/10/09

CADAN有楽町[東京都]

入江は印刷物の表面を消しゴムで擦り、出てきたカスをこねて立体物をつくる。今回はコロナ禍への応答として、日本の古い薬箱や薬袋など病に関連するイメージを用いた新作を見せている。《青面金剛困籠奈ダスト》は、薬箱の表面を擦って出た消しゴムのカスを色分けしてつくった小さな青面金剛像を、元の薬箱のなかに置いたもの。青面金剛とは日本の民間信仰のなかで発展した神で、本来は病を撒き散らす悪鬼だが、あえてそれを祀ることで病の拡散を防ごうとした風習に基づく。また、《薬魔地蔵ダスト》はレトロな薬袋の表面を消してアマビエをつくるなど、コロナ禍を意識した作品となっている。

ただそれ以上に感心したのは、掛け軸仕立ての日本画を用いた2点の作品。1点は、描かれた4匹の鯉が消しゴムのカスとなって5つの頭を持つ竜に、もう1点は2匹の子犬が3つの頭を持つケルベロスに、それぞれ変身を遂げているのだ。絵を消して立体化する発想もすごいが、ここでなにより驚くのは、いかに安物とはいえ(いくらで買ったか知らないけど)、曲がりなりにも掛け軸仕立ての日本画を消して自分の作品に変えてしまう豪胆さだ。かつてラウシェンバーグはデ・クーニングの素描を消して自作としたが、入江はさらに一歩進めて、消しカスで彫刻という新たな価値を生み出しているのだ。



《青面金剛困籠奈ダスト》 (2020) [Courtesy of the artist and Tokyo Gallery+BTAP. Photo: Yoshihiko Shikada]


公式サイト:https://cadan.org/cadanyurakucho-tokyogallery/

2022/09/23(金・祝)(村田真)

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