artscapeレビュー
学年誌100年と玉井力三 ─描かれた昭和の子ども─
2022年11月01日号
会期:2022/09/16~2022/11/15
日比谷図書文化館 [東京都]
子供のころ親しんだ『小学一年生』などの学年別の雑誌を「学年誌」と呼ぶ。その黄金期ともいうべき昭和30-40年代の表紙を飾ったのが、画家・玉井力三の描いた少年少女たちだ。同展は小学館が学年誌創刊100年を記念して、玉井の原画を中心に表紙画の変遷をたどるもの。ぼくもこの世代に属するので、昔好きだった娘に久しぶりに会うような気分で見に行った。
学年誌は『幼稚園』から『小学六年生』まであるが、玉井が担当したのは主に一~三年生。同展ではそれを学年順でも制作年代順でもなく、新学期が始まる4月から5月、6月と月ごとにまとめて展示している。こうすれば入学式とか運動会とかクリスマスといった年中行事がわかり、季節感や時代の変化も比較しやすい。原画はキャンバスに油彩で描かれ、画面上のタイトル部分が空白になっている。制作手順は、東京のスタジオで玉井の立ち会いの下にモデルを撮影し、その写真をもとに新潟の自宅で制作。完成したら東京に持参して、次号の撮影に立ち会うというサイクルだったという。作画も受け渡しも完全アナログだった。
描かれる少年少女たちは一様に笑顔で明るくかわいい。子供心にもなんてかわいい女の子だろう、なんでこんなにうまく描けるんだろうと感心したのを覚えている。が、いまこうして数百枚も並べてみると、ふと不気味にも感じてくる。それは「明るい未来」を描いた中国や北朝鮮のプロパガンダ絵画とどこか通じるものがあるからかもしれない。もちろん子供のころはそんなこと考えもしなかったが。
玉井は1908年、新潟県生まれ。美術学校には行かず中村不折に師事し、戦前は戦争画を手がけたこともある。同展には洋画家としての作品も出ているが、小磯良平ばりの卓越した描写力を持ち、表紙絵に時間を割かれなければ具象画家としてそれなりに名を成しただろう。雑誌の表紙の仕事が来るようになるのは戦後のこと。1954年から小学館の学年誌の表紙絵を始め、最盛期には『幼稚園』や『めばえ』も担当し、さらにライバルである講談社の学年誌の表紙まで引き受けたというから呆れる。表紙絵の仕事は約20年続いたので、総数は軽く千点を越すに違いない。
展示の最後に、小学館が学年誌を創刊してから100年間の表紙コピーがズラーっと並んでいるので、時代の移り変わりがよくわかる。大正時代の素朴な童画調に始まり、戦中・戦後はさすがに表紙絵もお粗末になるが、玉井が手がけた1950年代後半から70年代前半までは明るくカラフルで、部数も伸びたという。ちょうど高度経済成長と軌を一にしていたのだ。玉井が最後の表紙絵を描いたのは1974年で、その翌年から表紙は写真になり、80年代からドラえもんなどのキャラクターが侵出。90年代には文字情報が増え、最近は以前のような定型的な表現が崩れ、混沌とした様相を呈している。てか、まだ学年誌って出ていたの?
公式サイト:https://www.library.chiyoda.tokyo.jp/information/20220916-hibiyaexhibition_gakunenshi/
2022/09/23(金・祝)(村田真)