artscapeレビュー
写真展 はじめての、牛腸茂雄。
2022年11月15日号
会期:2022/10/07~2022/11/13
ほぼ日曜日[東京都]
渋谷PARCO8階のイベントスペース「ほぼ日曜日」で開催された牛腸茂雄展は、これまでの彼の展覧会とはひと味違っていた。
観客はまず、今回の展覧会の「案内人」を務める漫画家の和田ラヂヲによる簡単なレクチャーの映像を見て、「鑑賞ポイント」をいくつか把握してから展示会場に入る。そこには、牛腸が生前に刊行した3冊の写真集『日々』(関口正夫との共著、1971)、『SELF AND OTHERS』(1977、白亜館)、『見慣れた街の中で』(1981)の写真、約100点が並んでいるのだが、フレームのアクリル板が外されているので、「プリントの美しさを「直接」」味わうことができる。ほかに、牛腸が使ったカメラなどの私物、ノート、日記などがかなりたくさん出品されており、彼の制作のプロセスを追体験できるようになっている。まったくはじめて牛腸の仕事に接する観客も、僕のように何度も見ている者にも、彼の作品世界の深みと広がりとがしっかりと伝わる展示プランが実現していた。
牛腸茂雄という写真家には不思議なところがあって、一度彼の写真の世界のなかにはまり込むと、気になるところが次々にあらわれてきて抜け出せなくなってしまう。今回の展示でも、写真の前に立ち尽くして、動けなくなってしまった人を見かけた。一見穏やかで、明快に見える牛腸の写真のもつ、どこか魔術めいた力について、あらためて考えさせられる展示だった。会期中には、いま赤々舎で制作中の『牛腸茂雄全集 作品篇』も刊行されるはずだ。本展で、文字通り「はじめて」牛腸の写真に接した人によって、どんなふうに彼の新たな像が形づくられていくのかが楽しみではある。
公式サイト: https://topmuseum.jp/contents/exhibition/index-4270.html
2022/10/09(日)(飯沢耕太郎)