artscapeレビュー
王露『Frozen are the Wind of Time』
2022年11月15日号
発行所:ふげん社
発行日:2022/10/22
王露(Wang Lu)は1989年、中国山西省出身の写真家。武蔵野美術大学、東京藝術大学で写真を学び、いくつかの賞を受賞している。本作は、2021年にふげん社で開催された同名の個展に出品されたものだが、その時点から写真の数を大幅に増やし、構成も大きく変えて面目を一新し、ハードカバーの写真集として刊行した。同時期に、キヤノンオープンギャラリーで個展も開催している(2022年10月29日~12月1日)。
写真作品の重要なテーマになっているのは、王露自身の父親である。父親は彼女が12歳の時、事故によって脳に損傷を負い、社会生活が難しくなった。記憶が曖昧になり、精神的な障害もある。写真集は事故以前の、若く、幸せそうな父と母の写真の複写から始まり、帰省のたびに二人を撮影した写真が続く。父親が、撮影を拒否するように手で顔を隠す写真が繰り返し出てくるが、不安と諦念を抱え込んだ母親の表情とともに強く印象に残る。撮り続けなら、彼らの生、自分との関係のあり方について、王が自問自答している様が切々と伝わってくる。とはいえ、ネガティブな印象はあまりなく、見つめ続けることで認識が深まり、写真家としての自覚に繋がってくることがよくわかる構成になっていた。
家族の写真に加えて、もう一つ大事なのは、生まれ故郷で、現在も父母が暮らす山西省太原市の環境の変化が丁寧に描写されていることだ。ほかの中国の大都市と同様に、太原市もここ10年余りで都市化が急速に進行し、大きく変貌していった。その移りゆきと、病を抱え込んだ家族の姿とが対比されることで、本作は単純な「私写真」の枠に収まることなく、より大きなスパンを備えた社会的ドキュメンタリーとして成立している。今後の彼女の仕事への期待が高まる作品集だった。
2022/11/04(金)(飯沢耕太郎)