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津田直+原摩利彦 トライノアシオト─海の波は石となり、丘に眠る

2022年11月15日号

会期:2022/08/27~2022/10/30

太田市美術館・図書館[群馬県]

津田直は、現存する風景を撮影しながらも、その土地の光と風、そこからの出土品などの描写を通じて、「目には見えない」古代世界の様相、そこに生きていた人々の心性などを呼び覚まし、甦らせる仕事を続けてきた。今回の太田市美術館・図書館での展示では、群馬県一帯に1万4千基近く残るという古墳群を中心に撮影し、音楽家、原摩利彦とのコラボレーション作品「トライノアシオト 海の波は石となり、丘に眠る」をまとめている。タイトルのトライ=渡来という言葉は、日本の古墳時代の文化の担い手となったのが、朝鮮半島などからの渡来人だったことに由来する。

展覧会は二部に分かれ、第一室では古墳群の土地の起伏と馬の背中の共通性に着目した写真群が並び、原が作曲した弦楽八重奏曲「Sol」が会場に流れていた。「夜の時間」をテーマにしたという第二室には、津田が玄界灘の沖ノ島で撮影したという金色の輝きを放つ海面の写真がスクリーンに投影され、古墳の石室で一晩録音した「静寂音」のボリュームを上げて、あたかも波の音のように聞こえるサウンドが流れている。両室とも、埴輪や土器の実物を写真の合間に配置し、古代世界の気配、空気感を見事に再現していた。

美術作品に音楽(サウンド)を加えるインスタレーションは、諸刃の剣ではないかと思う。展示の視覚的な効果と聴覚のそれが、うまく噛み合わないことが多いからだ。だが、今回の津田と原のコラボレーションは、作品制作のプロセスにおいて綿密なコミュニケーションをとっていたこともあって、これ以上ないほどうまくいっていた。津田はこれまでも、作品のインスタレーションに並々ならぬ精力を傾けてきたが、本展はその彼の展覧会としても出色の出来栄えといえるのではないだろうか(空間構成=おおうちおさむ)。

展覧会にあわせて刊行されたカタログ(デザイン=須山悠里)も、素晴らしい仕上がりである。写真図版の強弱の付け方、文字のレイアウトに細やかな配慮を感じる。

公式サイト:https://www.artmuseumlibraryota.jp/post_artmuseum/182680.html

2022/10/30(金)(飯沢耕太郎)

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