artscapeレビュー
大森克己「山の音─sounds and things vol.3」
2022年11月15日号
会期:2022/10/20~2022/10/30
MEM[東京都]
大森克己がMEMで2014年、2015年に「sounds and things」と銘打って開催した連続展は、写真と言葉、見えるものと見えないもの、時間と空間などの意味を問い直す、意欲的な展覧会だった。コロナ禍による空白の時期もあり、やや間を置いて7年ぶりに開催された本展にも、その延長上にある作品が出品されていた。だが、前回と大きく変わったのは、スマートフォンで撮影された作品がかなりの比率で登場してきていることだろう。
大森に限らず、スマートフォンの普及が写真の撮り方、見せ方、伝え方を大きく変えつつあることは間違いない。だが、SNSなどにアップされる写真画像についてはよく言及されるのだが、それがギャラリーでの展示や写真集などを含めた写真表現のあり方にどんな影響を及ぼしつつあるのかについては、まだ未知の部分が大きい。大森は元々、写真や言葉によるコミュニケーションのあり方に、鋭敏に反応してきた写真家であり、スマートフォンを使った写真の可能性をかなり強く意識しているのではないかと思う。そのことが、「暮らしのなかで自然光で撮影された写真群」を中心にした壁面の構成、及びボックス状のデスクに、スマートフォンの画面と同じ大きさにプリントしたたくさんの写真をアトランダムに収め、観客が自由に手にとって見ることができるようにしたインスタレーションによくあらわれていた。「スマホとSNSの時代」の写真のあり方が、どんな風に動いていくのかを、あらためて問いかける展示といえるだろう。
なお展覧会に合わせて、大森が1990年代以来書き継いできたエッセイ、対談などを収録した『山の音』(プレジデント社)が刊行されている。
公式サイト:https://mem-inc.jp/2022/09/28/221016omori/
2022/10/26(水)(飯沢耕太郎)