2022年12月01日号
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artscapeレビュー

吉村朗の眼

2022年11月15日号

会期:2022/10/11~2022/11/19

Gallery Forest[神奈川県]

東京綜合写真専門学校4階にあるGallery Forestでは、定期的に企画展が開催されている。2021年の「西野壮平×GOTO AKI」展に続いて、今回は同校研究科を1984年に卒業後、ユニークな活動を続けた吉村朗にスポットを当てた展覧会が開催された。

吉村は1980年台後半にアメリカの「ニュー・カラー」の動向を取り入れた作品や、路上のスナップ写真で注目されるようになるが、1995年に発表した「分水嶺」をひとつの契機として、日本だけでなく韓国、中国、東アジア各地を舞台にして、日本のアジア侵略の歴史と吉村家の家族史とを絡み合わせたドキュメンタリー作品を制作するようになる。川崎市市民ミュージアムの連続企画展「現代写真の母型1999」展に出品するなど、意欲的な活動を展開していたが、2012年に故郷の北九州市門司区で亡くなった。没後に『Akira Yoshimura Works─吉村朗写真集』(大隅書店、2014)が編纂・刊行されるなど、あらためて彼の仕事の再評価が進みつつある。

今回の展示では「分水嶺」以外にも、「闇の呼ぶ声」(1996)、「新物語」(2000)、「ジェノグラム」(2001)など、生前に発表された代表作に加えて、未発表作品、写真集や展覧会カタログなどの資料、使用していたカメラなども出品されていた。特に注目すべきなのは、これまで破棄されていたと思われていたカラー写真による路上スナップの連作「THE ROUTE 釜山、1993」のプリントが発見され、まとめて展示されたということだ。それらを見ると、日本の近代史を遡行していく吉村の試行のベースになる部分が、この時期にくっきりと形をとっていたことがわかる。また、これも最近になって発見された「ANTESPECTIVE/抗議する人」と題する2008年のシリーズには、下関で開催された「リトル釜山フェスタ」に参加する安倍晋三元首相の姿が写っており、吉村の関心の幅の広さがうかがえた。

吉村朗の没後10年にあたる年に、本展が開催されたことはとても意義深い。とはいえ、今回の展示で、彼の仕事の全体像がすべて明るみに出たというわけではない。この写真家には、まだ謎めいたところがたくさん残っており、今後も粘り強い解明の営みが必要になってくるだろう。

公式サイト:https://gallery.tcp.ac.jp/eyes-of-akira-yoshimura/

2022/10/17(月)(飯沢耕太郎)

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